みそ文

安全キャップをご存知か

 半年か一年くらい前に夕食を摂っていたら向かいの席に座る夫が「これなに?」と橙色のプラスチックボトルを持ちだした。夫の席の隣の椅子にサプリメントのボトル群が箱に入れて置いてあり橙色の容器はそのうちのひとつ。

「それは鉄じゃないかな。書いてあると思うけど。ラベルは英語だけどボトルの上には私が手書きでFeって書いてるでしょ」
「それは見ればわかる」
「なんで鉄を飲むかってこと? 私ほらいろいろ頭痛対策してるじゃん。それで近年結局頭痛のときって酸欠になってるなって気がついたのよ。痛みに耐えてるときってたいていりきんでどこかがこわばっていて呼吸が浅くなっているというのもあるけど、それなら気をつけて深呼吸を繰り返しましょうと思ってそうしてもそういうときっていくら息を吐いても吸ってもうまく酸素が体に入らないかんじがあって。そういうときに鉄のサプリを飲むと同じ呼吸をしても血液中にちゃんと酸素が入ってうまく運ばれて全身に届けられて細胞の老廃物をちゃんと血液にのせて流して戻してくれてそうするとこわばっていた筋肉がほぐれて痛いのがらくになるってわかったから、思い出して飲めるときには飲むようにしてみてるの」
「ほう」
「私の場合鉄の多い食品は好きなものが多いから血液検査で貧血の数値が出ることはないんだけど、数値的に貧血でなくてもさらに鉄を補ったほうが頭痛対策にはいいみたいということは私の体にとっては標準的な数値では足りないということなのだろうと思って鉄サプリをと思っても私はあんまり鉄の加工品の味が得意じゃなくて、あの鉄棒を舐めたような、いや実際に鉄棒を舐めたことはないんだけど、あの味が苦手で、でもここのメーカーの鉄サプリは全然味が気にならなくて飲んだ後に内臓から粘膜全体が鉄臭くなるかんじもなくてこれなら飲めるなーと思って。多少便の色は黒ずむけどそれはまあ許容範囲」
「で、これはなんなん?」
「いや、だから、いま、鉄の説明を延々としたじゃん」
「中身の鉄のことじゃなくて、この蓋、どうやって開けるん?」
「え? それは安全キャップだから安全キャップを開けるように押して回す」
「押して、回す。開かんじゃん」
「あー、どうやらくん右利きなのにだらして(横着して)左手で押して回してるでしょ。ちゃんと利き手でやってみて」
「えー、そんなことあるんかな。右手で押して回す。おおっ、開いた。なにこれ?」
「安全キャップを使ったこと、ない、の?」
「ない」
「ええとね、何を口に入れるかわからない幼子やトシヨリが勝手に開けて中身をむやみに飲まないように安全性を考慮してふつうに回しただけでは開かないつくりにしてあるキャップなんだけど」
「ほえー、世の中にはそんなものがあるんかー。たしかにサルでは開けられんな」
「もうかなり昔からあると思うけど、そうか、うちは小さな子どもを育てることがなかったから、子供用のシロップの薬の瓶の安全ボトルを家で取り扱うこともなかったかあ。私は仕事で取り扱うけど、そうでなかったら使うことないかもしれないなあ」
「で、これ閉めるときはどうするん?」
「閉めるときはそんなに力を入れなくても普通に回すかんじで」
「え、でも、なんか閉まらんぞ。ほら、カリカリカリカリいって空回りするばっかりで」
「ちょっとボトルの蓋壊さないでよ。それは右に回してるから空回りなんであって、左に回せばふつうに止まるでしょ」
「あ、そうか、お、ほんまや。おれがこんだけ開け閉めできんということはそりゃガキんちょやボケたトシヨリには開けられんな。サルには開け閉めできん言うたけど、今おれがサルやったもん」
「どうやらくん、大きくなって、世の中に、安全キャップがあるのを知ってよかったね」
「おー」     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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