みそ文

切妻屋根はゲイブルズ

 日曜日に夫と隣県の魚料理屋さんに出かける。魚屋さんの二階にある魚料理屋さんにしようか、農園が営む野菜レストランで食べ放題ブッフェスタイルのお昼ごはんにしようか、夫は土曜日に山に行ってきたから今なら食べ放題に勝てると言うけれどどうしよう、と迷いながら、車に乗ってから考えようということにして出発する。魚料理屋さんならば高速道路に乗って行くことになり、野菜レストランならば高速道路の手前までの移動で済む。

 今回は私が高速道路のサービスエリアで加賀棒茶を買いたいという希望があった。別に大急ぎではないのだけれど、魚料理屋さんか落語か何かで石川県に行くときには買うのを思い出したいな、と思っていた。加賀棒茶はほうじ茶で茶葉の茎の部分だけを浅く香ばしく焙じたもので、ほうじ茶でありながら少し上等な緑茶と同じくらいのお値段がするものの、そのすっきりと澄んだ味わいはそのお値段に見合ったおいしさ。

 買いたいなという気持ちがあるときに買いに行こうよ、お腹がいっぱいになったらそれでどうでもよくなってしまうといけないから、まずはサービスエリアで加賀棒茶を買って、それから魚料理屋で魚を食べよう、と夫が車中で決めてくれたので、よしそうしよう、と、ETCカードを車載器に入れていざ高速道路へ。インターチェンジから本線に向けて加速する私の左隣で夫が「月曜日のアニメ赤毛のアンでさ」と話始める。

「月曜日のアニメ赤毛のアンで、マシュウがアンに『アンはアヴォンリーのアンじゃよ、グリンゲイブルズのアンじゃよ』って言うてたけど」
「うん、言うてた言うてた」
「アヴォンリーっていうのはあの地域の名前じゃろ?」
「うん、そう、たぶんあそこの村の名前がアヴォンリー」
「じゃあ、グリンゲイブルズは?」
「マシュウとマリラとアンが暮らすあの家がグリンゲイブルズ」
「グリンゲイブルズって?」
「あの家の色形がグリンゲイブルズじゃん」
「家に名前をつけてるってこと?」
「家に名前をつけてるというか、家の特徴がそうだからそう呼んでいるというか。でもそういえばダイアナの家のことをバリーさんちって言う以外に何か家の名前で呼んでいたかというとそうでもなかったような」
「で、なんであの家の名前がグリンゲイブルズなん?」
「なんでって、緑の切妻屋根の家じゃん」
「それは知ってるけど、それとグリンゲイブルズとどう関係があるん?」
「え? え? え? えーと、あの家の屋根が緑色なのは知ってるよね?」
「うん、緑色の切妻屋根だけど」
「えーと、切妻屋根の形は知ってるというか屋根の形に関してはどうやらくん私より詳しかったよね。えーと、えーと、もしかして、どうやらくんは切妻屋根のことを英語でゲイブルって言うのを知らんのんかな?」
「ああー、ゲイブルズって切妻屋根のことなんか」
「そうだよ、今まで何だと思ってたん?」
「なんかなー、と思ってた」
「何を今更。あれほど花子とアンの中で『グリンゲイブルズのアンを直訳すると緑の切妻屋根のアンになりますが翻訳した本のタイトルはどうしましょう、窓辺に寄る少女でいきましょうか、いややっぱり赤毛のアンで』って話をしてたじゃん」
「あー、なんかそんなこと言うてたなー、そういえば」
「たぶん、マシュウもマリラもあの家の緑色の切妻屋根のことも自分たちの家をご近所さんたちや自分たちがグリンゲイブルズと呼ぶことも気に入ってるんじゃないかな」
「そうか、あの家の名前がグリンゲイブルズなんか。ずっとアヴォンリーのグリンゲイブルズっていうのは河内長野市小山田町の河内長野市の部分がアヴォンリーで小山田町の部分がグリンゲイブルズなんかと思ってた。アヴォンリーは島の中にある村なんじゃろ?」
「うん、プリンスエドワード島っていう島の中だけど、そういえばそんなに言うほどアヴォンリーは島島したかんじはせんね」
「そりゃ、島とは言っても瀬戸内の島とは違うじゃろうけん。面積も大きいんじゃろうし」
「そっか。島とはいっても四国や九州くらいあるかもしれんしね」
「北海道くらいかもしれんし。そうかー、地名とは別に家に名前があるとはなあ」
「家の名前だと思うけど、マシュウが所有してる広大な農地も含めてグリンゲイブルズなんかな、いや、あの家のことだけだと思うけど」

 日曜日のお出かけでグリンゲイブルズが緑の切妻屋根だと理解したところで、今日のアニメ赤毛のアンを見ましょうかね。     押し葉

羊羹の大きさ

 私の通勤用のバッグには一口羊羹が常に数個入っている。仕事中に『あー、血糖値が下がってるなー、エネルギー補給したほうがいいなー』と感じたときにバッグから取り出してつるりと一個食べる。

 普段は生協のカタログで見つけては買うようにしているのだが、ときどきなかなか生協カタログで一口羊羹に出会えないまま自分の手持ちの一口羊羹が尽きることがある。いつも行くスーパーでは思うような一口羊羹を扱っておらず、うーん、ないなあ、どうしよう、と考える。

 前回夏に同じように手持ちの一口羊羹が途切れたときには北海道に住む友人が標津羊羹の一口サイズのものを送ってきてくれてそれは水も糖(標津のビートが使われている)も清らかな澄んだ味でたいそうおいしく、勤務中に急いで食べるのはもったいなくて自宅でフウセンカズラをながめながらおいしい緑茶とともにちびちびといただく。夫は食卓にきちんと腰掛けて「いただきます」と両手を合わせてお行儀よく食べながら「これ、うまいな」と言う。職場に持って行き仕事の途中で食べた時にはその上品な味が体にもこころにもうれしくて『よし、このあとの仕事もがんばろっ』とすこやかで前向きな気持ちが整う。それは生協カタログで購入する一口羊羹のときよりも数ランク格上の気持ち。

 そして今回生協カタログで一口羊羹が見つからなくて、どうしようかなー、と考えた結果ネット通販を利用することにした。一口羊羹であっても羊羹としておいしいものが食べたい。なおかつ勤務中に手軽に開封して素早く食べられる構造のものがいい。商品説明とレビューを参考にしてよしこれを試してみようと選んだのは井村屋の「スポーツようかん」。パッケージのデザインがスポーツ飲食品なかんじで長距離を走るひとやスポーツ自転車に乗るひとや登山をするひとなどのいわゆるアスリートを対象にした商品のようだ。私はそれらのスポーツはしないが私にとっての仕事は体と頭のエクササイズであり職場という名のスポーツクラブに行ってお金をもらっているようなもので私は人生のアスリートといえばまあアスリートと言えるよねということにする。

 参考にしたレビューの中で私にとって決め手になったのは「思ったより小さい」という感想だった。ええ、ええ、小さめがいいの、仕事中にささっと一口で食べたいからぜひとも小さめを希望するわ、と期待して注文。しかし届いた実物を見た私の最初の感想は「思ったよりも大きい」だった。帰宅した夫にそう話すと夫は「まあ、大きいや小さいは個人の主観だからなあ」と言う。それはまあそうであるし、製品サイズは確認して買ったのだからまあいいのはいいのだけど、一口で食べるのは無理そうで、押し出すだけで食べられる「スポーツようかんプラス」のほうでがんばって二口、いったん手でくるりと包装をむいてから食べる「スポーツようかん」のほうは四口くらいはかかりそうなサイズ。

 思ったよりも大きかったので夫に「山に行く時によかったら持って行って食べてね」と勧める。自分の通勤バッグにも入れる。これまでの一口羊羹とちがってややずっしりと重みを感じる。羊羹としてはおいしい羊羹で押し出しタイプもむきむきタイプも両方とも薄く切って菓子器にのせて濃い目の緑茶といただいてもおいしい。スポーツ仕様ということで若干塩味があるが塩羊羹ほど塩塩しておらずほどよい加減。

 むかし大阪に住んでいた頃、私の実家から送られてきたでっぷりとした大きな羊羹があったのだがうちで夫とふたりではとうてい食べきれないから誰かに助けてもらおうと同じ社宅に暮らす仲良しの夫婦(全体的に食べっぷりが優れているひとたち)にお願いすることにした。私達が食べたいだけ切ってもらい残りは彼らに託してしまおうという計画だ。その家の主婦であるひららちゃんは「わーい、羊羹だー、ありがとー」と喜びつつおいしいお茶を用意して「みそさんはどれくらい食べる?」と羊羹と包丁を両手に持ってにっこりと尋ねてくれた。「んー、じゃあ、1センチくらい切ってください、お願いします」と私が言うとひららちゃんは「1センチを何個?」とさらに尋ねてくる。1センチを1個のつもりでそれ以外考えていなかった私は「え、えーと、1個ですが」と答える。ひららちゃんは「みそさん、そんな1センチ1個なんてあかんやん、2個はいかな、3個でもええで」とたたみかけてくる。私は「じゃ、じゃあ、1センチ2個でお願いします」と言う。続いて「どうやらくんにはどれだけ切っといたらいいんかな」と訊いてくれ「みそさんとおなじでいいんやね、じゃあ、1センチを2個ね」と切ったものをきれいにラップに包んでくれる。それから「かるるくんはどれくらい食べる?」とひららちゃんが彼女の夫に尋ねる。かるるくんは「ぼく、10センチ」と言う。はい? いま、なんて言いました? え? と私が脳内で彼の返答を反芻しているとひららちゃんが「わたしも10センチかな」と言いながら羊羹の包みを大きく開け始める。

「ひららちゃん、いま、ふたりとも10センチって言った?」
「うん、うちはいっつも羊羹はひとりそれくらい食べるで。みそさん1センチ2個でほんまえにええんか?」
「うん、うん、私は1センチ2個がいいの、それでもうそれ以上は許してください」
「みそさんとこはどうやらくんもみそさんもふたりともほんまに小食やなあ」
「いやいやいやいや、羊羹いうのはそんなにいっぺんにようけいは食べられんやろ」
「そうかー? 食べられるで。もっとようけいも食べられるで。なあ、かるるくん」
「うん、食べられる」
「はい、じゃ、かるるくん10センチね、私も10センチ、みそさんは1センチ2個ね。はいお茶どうぞ。いただきます」
「いただきます」
「いだたきます」

 私が1センチ2個の羊羹を十回に分けて口に運べるくらいのサイズに手元でさらに小さく切りつつ口に入れてはお茶を飲むそばで10センチの羊羹を食べるひららちゃんとかるるくんは羊羹をケーキのような一口サイズに手元で切りつつおいしそうに食べていた。

 昔からどうして羊羹はこんなに大きいのだろう、こんなに大きいと食べても食べても食べきれないではないか、羊羹はすっごく甘いからわりと長く保存ができてゆっくり食べればいいのはいいけど、それにしても大きくないか、と思っていたけれど、一回にひとり10センチくらいかそれ以上食べるとしたら、世の中の羊羹の大きさはそれほど大きすぎるわけではないんだなあ。スポーツようかんのレビューに「思ったより小さい」と書くひとはふつうの羊羹を食べるときには1回に10センチかそれ以上はぱくぱくと食べられるひとなんだわ、きっと。     押し葉

奇数の奇の字

 私が暮らす自治体ではゴミ回収の種類の中に「蛍光灯回収の日」というのがある。以前は蛍光灯は燃やせないゴミとして出すか販売店で回収してもらうことになっていたのだが蛍光灯を蛍光灯だけで回収して資源として再利用しましょうという趣旨で新しい回収日ができた。
 蛍光灯は毎月定期的に回収されるわけではなく、出せるのは奇数月の第何何曜日と決まっている。
 我が家では居間の壁にゴミ分別方法と回収日の紙を貼っているのだが、この紙は古い案内のため蛍光灯の回収については書かれていない。その紙の欄外に手書きで蛍光灯の回収日を書こうとしてふと「奇数」の漢字がとっさに書けないことに気づく。

「う。どうやらくん。わたし、きすうのきの字が書けない。数は書けるんだけど」
「きすうのき? そんなん簡単じゃん」
「どうだったっけ、教えて。口で説明して」
「簡単簡単。まずウ冠を書くじゃろ」
「はい、ウ冠書きました」
「その下に大中小の大を書きます」
「はい、ウ冠の下に大を書きました」
「その下に可能不可能の可を書きます」
「どうやらくん、これ、きすうのきの字じゃなくて寄り道の寄るの字でお年寄りの寄りの字だと思う」
「あれ。ほんまや」
「奇数の奇はウ冠が要らないんじゃないでしょうか」
「そうや、ウ冠なしやなあ、おかしいなあ、奇数の奇はウ冠から始まると思ったんだけどなあ」
「うわーん、いきなりゴミ分別の紙に赤マジックで書いたけど、どうやらくんが言うとおりに書いたら間違った字だったよう、バカなひとが書いたみたいだよう」
「ウ冠のところゴニョゴニョと消してみたらどうかな」
「うう、こうかな、ゴニョゴニョ。うわーん、なんかもっとバカなひとみたいになったー」
「大丈夫、この紙は俺ら以外誰も見るわけじゃないし」
「そうだけどー、でもー、奇数の奇の字を間違って寄って書いたのもそれをゴニョゴニョ直したのに直しきれてないのもこれを修正テープなりで隠して書き直すのもなんかー、いやー」
「よしよし」

 とっさに漢字が書けないときには夫に訊くのもいいけれど自分で調べるのもいいと思う。そしていきなり書きたいところに書くのではなくて別のところに下書きをして確認してから目的の書きたいところに書くのがいいと思う。     押し葉

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Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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