みそ文

版画と弁当

 このまえの休日、版画の刷り作業で疲れていたら、夫が「なにか買ってきたものを食べよう。おれが買ってくるよ」と申し出てくれた。「ケンチキにしようか」と言う夫に「うーん、今日あたりは私達が求めていないパーティーバーレルのみのメニューになっているんじゃないかな」と数年前にふつうに単品のフライドチキンが食べたくてKFCに出向いた時がたまたまクリスマス時期でカウンターでクリスマス用パックのみの販売だと言われた記憶を手繰って伝える。夫は「ああ、そうか、そういえばそうだった」と思い出し「じゃあ、弁当は?」と提案してきた。

 うちから車で五分弱くらいのところにほっかほっか亭がある。では、と、インターネットでほっかほっか亭のメニューを見て「私はこれがいいです、お願いします」とメモ用紙に商品名と値段を書き込む。「じゃ、行ってくる」と夫はサクッと出かけてサクッと帰ってきた。私が注文した種類のお弁当が二個あった。「どうやらくんも同じぶんにしたんじゃね」とふたりで同じお弁当を食べる。根菜の煮物、鯖の味噌煮、大根と人参の酢の物、天ぷら、漬物、鶏とゴボウの炊き込みご飯。天ぷらのピーマンだけが私が食べられないものだったから夫に頼んで食べてもらう。私が食べても大丈夫なもので大半が構成されるお弁当もあるものなんだなあと感心しながら食べる。夫はほっかほっか亭のお弁当を食べると必ず「たまに食べるとおいしいなあ」と言う。「おいしいね」とこたえる。夫が「今日のこの弁当、ごちそうするよ」と私に言う。

「ありがとう。でも、なんで?」
「ほら、ボーナスでなにかおいしいもの食べに行こうって話してたの、なかなか行けないから」

 いやいや、えーと、それはそれとしてまたゆっくりと、ノドグロでもノドグロでもノドグロでも食べに連れて行ってくれたらいいと思うの、無理にほっかほっか亭のお弁当でボーナスお食事完了にしなくても。     押し葉

あるべきしかるべき

 毎年おそらくこの時期になると私と夫が卒業した高校の同窓会の連絡請負会社(というのだろうか)から同窓会費寄付のお願いや同窓会名簿購入のお願いや会誌などの配布物が届く。夫と私は同じ高校の出身で高校三年生のときには同じクラスにいた。当時はお互いの存在をことさら認識していない間柄ではあったが、将来結婚して夫婦になるという人生の旅プラン実施のためにはあのときあの場にともにいたのは効率がよかったのかもしれない。

 結婚して夫と同居を始めた年には私宛の同窓会連絡の郵便物は私の実家に届いた。帰省してそれを受け取った時に高校関係大学関係ともに私は自分の住所を結婚後の住所に変更する手続き(住所等変更事項がある場合は返信用ハガキで連絡しろと同封してあるハガキに書いて送るだけだが)をした。その後は転居するごとに連絡物が届いたタイミングで転居後の住所に変更してきた。

 夫は高校同窓会の登録住所を結婚後もずっと実家住所のままにしていた。大学の同窓会関連の住所登録も実家のままだ。だから夫になにかが届くと義母がその都度そのときの住所に転送してきてくれる。

 何年か前に夫に「高校関係も大学関係ももうそろそろいい加減にこっちの住所に送ってもらえるよう手続きしたら」と提案したことがあったが、夫は「転送してもらったのが届いたっていう連絡を口実に家に電話して親の様子をうかがうことができるけん」ともっともらしいことを言い私の提案を拒んだ。ほほう、それは親孝行っぽい殊勝なことを言うわねえ、とそれならとそのままにした。

 転送は郵便物ならそのまま転送希望の旨と転送先住所を書いて投函するだけ(それも手間だとは思うが)で別途料金は発生しないが、近年は郵便以外のクロネコメールなどで送られてくる場合もある。義母は郵便ではないそれに夫の現在の住所を書き切手を買って貼り投函して送ってくれる。

 義母からの転送物が届いた時に夫がなかなかお礼の電話をかけないので、夫に「おかあさんにお礼の電話するんじゃろ」と言うと夫は「うーん、明日か今度の週末にでもしようかな」だとか「今度帰省したときに言えばいいじゃろ」などと不届きなことを言う。

「どうやらくん、転送してもらったお礼を言うのに電話かけておとうさんやおかあさんの様子を聞きたいけん配送物の送り先を実家の住所のままにするんじゃって言うとったじゃん。年老いた親に転送の手間かけてもらって、おかあさんクロネコメールにわざわざ切手を買うて貼って送ってきてくれてのに、そのお礼を届いたタイミングでちゃんと言わんってどういうことなん。お礼の電話も様子伺いも結局せんのんじゃったら、もうええおとななんじゃけん親にそんな手間をかけさせんさんなや」
「いいじゃん、おれの好きなようにしたって」
「好きなようにしてそれで失礼のないようにできるんならいいけど、お母さんがしてくれちゃったことに対してしかるべきそのときにお礼を言わんのは失礼なことじゃと思う。私はそのへんは親しき仲にも礼儀がある人と夫婦でおりたい派」
「ふうん」
「どうやらくんねえ、高校の同級生名簿の住所広島のまんまじゃん。私は今の住所でどうやらくんと同じ苗字じゃろ。もし同窓会名簿見てそこに気がつく人がおっちゃったら『あれ、どうやらくんとみそさんて結婚したんじゃなかったっけ』『結婚したじゃろ。みそさんの苗字どてらからどうやらに変わっとるもん』『でもなんでみそさんとどうやらくんと住所が違うんじゃろうか』『そりゃあ、あれじゃないかねえ、どうやらくんがまたいらんこと言うたかいけんことしたかでみそさんに三行半つきつけられて実家に帰っとるんじゃないん』『あれかもよ、どうやらくんはみそさんを怒らして離婚されたけどみそさん仕事するのに苗字そのままのほうが都合がいいけんどうやらのまんまにしとるとか』『ほうかもしれんねえ』とかいうことになるんよ」
「ほー。ようそんだけ話を作るなあ」

 そんな話をしたあとに高校の同窓会連絡請負会社から夫宛に届いた「同窓会名簿のご購入ありがとうございます。代金はいついつまでにこちらの振込用紙でいくら振り込んでください」という連絡物が義実家から転送されてきた。同じ時期に私には「同窓会名簿が完成しました。よろしければぜひご購入ください」の連絡物が自宅宛に届いていた。夫は「おれは同窓会名簿なんか申し込んでないのに、なんで申し込んだことになってるんだ。なにかの詐欺か!!」とわずかに憤る。私は夫に「どうやらくん、それはこの機会に、同窓会名簿は申し込んでいません要りません、の連絡をするついでに、自分宛ての配送物は自分でお世話できるように住所変更手続きもしなさいね、っていうお告げなんじゃないかな、まあ放っておいてもお金を振り込まんかぎり名簿は送られてこんじゃろうし請求もないじゃろうけど」と言う。夫は同窓会連絡請負会社に電話をかけ事情を話す。同窓会連絡請負会社の人は「手違いがありすみません」と詫びたうえで名簿注文を取り消す。夫はそのときに電話でだったか同封されていたハガキでだったかで住所変更の手続きをした。

 そうして今年の本日、夫と私の自宅宛に高校の同窓会連絡請負会社から同じ連絡物が届いた。なんとなくこういうのをあるべき姿というのかしら。     押し葉

物欲サンタ

 現在の勤務先の同僚たちは各家庭に小学生くらいの子どもがいる人もいれば中高生や大学生の子を持つ人もいればすでに成人し結婚した年代の子がいる人もいればいろいろ。今日一緒に勤務した同僚には中学生と高校生の女の子がいる。その同僚に「ご自宅のサンタさんはまだ現役なんですか」と尋ねたところ「現役なのは現役なんだけど、うちのサンタさんは物欲にまみれたサンタさんになってきて」と言う。

「サンタさんが物欲にまみれるんですか。プレゼントをする側なのに物欲?」
「サンタさんだから子どもらへのプレゼントはそれはそれでちゃんとするんだけど、なんかうちのサンタさんはクリスマスというのは普段自分が買わずに我慢している高価なものを思い切って買ってもいい日だということにしはじめたみたいで、娘たちの枕元にプレゼントを置いたあと必ず自分の寝床の枕元にも自分宛てのプレゼントのラッピングもなんにもしてない箱を置いてから寝るのー」
「おおー、いいですねー」
「よくないよー、私がこれまで何回も『うちではそれは要りません』って言うてた高価なコーヒーメーカーなんか勝手に買ってきてー。あのサンタさんぜったいなんか勘違いしてるわー」
「じぶんサンタってほしい物のツボを隅々までおさえてくれてて完璧なんですよねえ。それはもう新たな文化ということで」
「ほんま新たな文化やわ」

 クリスマスの時期だからといってピンポイントでほしいものをそんなに毎年毎年はなかなか思いつかない私としては、サンタさんの健全な物欲はそれはそれですこやかで素敵ねえ、と思うけれど、子どもたちの進学費用や習い事の月謝を捻出するやりくりをする立場にしてみたら、少しばかり『おのれサンタ』な気分になることもあるかもしれないそうかもしれない。     押し葉

乳白色でも逃げる

 バキバキバキッ、「痛ー!!」、その音と痛みで夜中に目が覚める。夢の中で新種のゴキブリたちから逃げ惑っていた記憶はある。新種のゴキブリたちの何が新しいかというと、普段は乳白色の覆いをまとっていて本来の黒い姿が見えにくいということ。しかし本格的に活動するときには、なにやらくるっとその乳白色の覆いを体のどこかに収納し従来通りの黒々とした姿で素早く走り飛行する。見慣れるとその乳白色の覆いがあってもそこにゴキブリたちがいることがわかるようになる。そうして見慣れると、乳白色の覆いに透ける黒い躯体の存在感が想像の中で誇示されるのかよりいっそうの忌避感が強まる。そこに乳白色のゴキブリたちはどれくらいいただろうか、数匹ではなく何十匹か。退治する道具を持ちあわせておらず、目に見えるところにこれだけたくさんいるということは今は見えない場所にもっと大量の仲間が潜んでいるということだ、こんなところに長居したくない、もうこれは退治するよりもとにかくさっさと逃げよう、と決めたのだ。

 その新種のゴキブリたちと遭遇したのは自宅ではなく旅先だった。逃げる過程で少し大きめの段差を飛んだのだったかあるいは川を飛び越えたのか、とにかく夢の中の私は逃走のために跳躍した。そして文頭の音と痛み。目覚めた布団の中で「はうっ、はうっ」と右膝をさする。夢の中でジャンプした時に布団の中で実際に脚を急激にぐっと伸ばすかなにかして、その急激さに睡眠中の関節としてはついていけなかったということだろうか。

 右膝の内側の痛みがある部位に沿ってロキソニンテープを貼る。しばらくのあいだおとなしくまじめにコンドロイチンの服用にも努めよう。いたいわ。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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