みそ文

野菜狩人

 スーパーの野菜コーナーで青紫蘇の葉を手に取る。しなやかな葉脈と鮮やかな緑色が私を誘う。十枚ずつ葉の根元の茎の部分を輪ゴムでくくられ細かく砕いた氷の台の上に一束ずつ並ぶ。ビニール袋には入っていない。私の隣にいた年配の女性が「私もこれをもらおう」と言いながら売り場の青紫蘇を手に取り私に「これはどうやって食べられますか」と尋ねられる。私は「そうですね。私は小さく刻んで素麺やお豆腐の薬味にすることが多いですかね」と応える。その人は「なるほど。それもおいしそうね。私はサラダでこのまま食べるんだけど、それでもいいのかしら」と言われる。「もちろん。サラダで食べてもおいしいですよね。私も好きです」と言ってから「では失礼します」と会釈する。おばあさんもにっこりと会釈してくださる。野菜狩人としてよき獲物を手にした者同士の満足な笑みと会釈。少し離れたところで夫がカートを持って待つ。そのカートに歩み寄り青紫蘇の葉をカートのかごの中に入れる。
    押し葉

どこそこここここ何丁目

 インターネット通信販売をよく利用する。結果的に宅配業者さんに頻繁にお世話になる。今日仕事から帰宅したらクロネコヤマトさんの不在連絡票が玄関ポストに入っていた。電話して再配達をお願いする。ドライバーさんの携帯番号を、と電話機のプッシュボタンを押す。そのまま受話器をあげて呼び出し音を待とうとして、はっと、今自分が押した番号の下四桁が電話番号ではなく伝票番号の数字であることに気づく。一瞬持ち上げた受話器をすぐに元に戻す。それから今一度担当ドライバーさんの電話番号を確認してプッシュボタンを押し、ディスプレイに表示された番号の数字を一個一個たしかめてから受話器を持ちあげる。

 担当ドライバーさんの携帯電話につながり「このあとでしたらいつでもいいのでよろしくお願いします」と依頼する。よしよし、再配達依頼完了。と思っていたら電話が鳴る。ナンバーディスプレイに表示される番号はなんとなくつい今しがた見覚えがある番号。あれれ、クロネコヤマトさんかしら、と思いながら電話に出る。電話の主は「クロネコヤマトのドライバーなんですが」と名乗る。「はい、お世話になります」と挨拶する。なんだろう、さっきの今で、突如今日中の配達が難しくなったお知らせかなにかかしら。

「あの、さきほど、お電話いただいたみたいなのでかけなおしたんですが」
「ああ、はい、再配達のお願いをしまして、持ってきていただくのをお待ちしているところですが」
「再配達のご依頼でしたか、すみません、ご住所はどちらかお聞かせいただけますか」
「はい、どこそこここここ何丁目何番何番地何号室のどうやらみそです」
「…。あの、実はこちらは広島県庄原市のクロネコヤマトなんですが、お客様からの着信履歴を見ましてお電話さしあげてみたんです」
「ああ、ごめんなさい。それは私がさきほど再配達のお願いをするときに、電話番号の下四桁を間違えてかけてすぐに切ったほうの電話ですね。すみません。あのあとすぐにこちらの担当ドライバーさんの携帯にかけ直しまして無事に再配達依頼いたしましたのでご安心ください。余計なお手間をおかけしてすみませんでした」
「いえいえ、そうでしたか。それでしたらよかったです。では失礼します」
「わざわざありがとうございました。失礼いたします」

 その後ほどなく私宛の荷物は無事に届けられた。今度から不在連絡票を見ながら再配達依頼電話のプッシュボタンを押すときには、伝票番号の数字部分は折り曲げて見えないようにして、ドライバーさんの電話電話番号だけが見える状態にしてからにいたしましょう、そうしましょう。     押し葉

夏至の手前の全粒粉

 昨夜夕食の支度をしていたらちょうどあともう少しで完成という段階で夫が帰宅した。

「おかえり、どうやらくん、いいタイミングで帰ってきたねえ、たったいま素麺を茹で上げたところなんよ。我が家はお互いに携帯電話でも携帯メール(SMS)でもいまから帰るよの連絡をするわけじゃないのに、素麺の茹で上げぴったりに帰宅するどうやらくんも、どうやらくんが帰ってくるのにぴったりで素麺を茹で上げる私も、タイミングの達人じゃね」
「おう、おおう」

 夫は手洗いうがいののち着替えてくる。私は素麺をザルの中で水洗いしながら私がこうしている間に卓上に先に出しておいた薬味というか素麺用のおかず類のお皿にかけてあるラップを外してもらえると円滑だなと思い夫に「ラップを外してくださいな」と声をかける。夫は「なにを外せって?」と聞き返す。私は今度はゆっくりと声のトーンを低めにして「ラッッップ」と応える。夫は「ああ、ラップね」と言ってお皿のラップを外し始める。

「ねえ、ねえ、どうやらくん、この食事前の食事を支度している状況において私が『なになにを外してくださいな』と言った場合、この周辺で現状において必要なことがらで『外せる』ものを推理してみたら何が外せると思う?」
「なにかなー、って考えたんだけど、最近みそきちが気に入って食べてる黒ごまペーストの瓶の蓋を外せって言うんかなあ、そんなものをいま開けてもしゃあないしなあ、おれは黒ごまペーストは食わんしなあ、なんやろうなあ、このテーブルの上にあるもので外せるものって他になにがあるかなあ、って思ってた」
「どうやらくんね、私との会話だけでなくて誰とでも、日本語会話だけでなく何語で会話するときでもよ、英語を聞き取るときにでも、相手の音声が発する単語そのものを聞き取ろうとするだけじゃなくて、状況のある会話においてはその状況と流れから会話に出てくる語彙や展開を想像予想する訓練が大切だと思うの。その想像や予想をしたら『なにを外すのか』じゃなくて『外すのはこれこれ?』と確認するかんじで聞き返せるでしょ。そのほうが、ああこの人は自分の話を聴こうとしてくれてるんだな、という気分になりやすいような気がするなあ」
「はい、だんな、ラップ、外しました、次は何をしたらよろしいでしょうか」
「ありがと、んー、あとは、座って、いただきます、かな。でね私は状況における展開や流れをオリジナルに想像予想しすぎるところがあって、それでへんてこりんな聞き間違いをしてありえんことを聞き返したりするんかもしれん」
「あー、たしかに、妙ちきりんな聞き間違いを平気で口走るよなあ」
「うん、『最近陽が長くなったよねえ』って言う人に『え? 火鉢買ったんですか? いまどきめずらしいですね』とかね」
「ヒ、の音しか合ってないし。ほんま、人の話はちゃんと聞けーって思うよなあ」
「うん、お互いに気をつけようや」

 昨日の素麺は全粒粉素麺。通常の素麺よりも茹で時間は長く(五分)かかるが、香ばしくておいしい。夫も私もお気に入りの素麺。久しぶりにつけつゆで食べる素麺もおいしいね、と話しながら全粒粉素麺を噛み締める。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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