みそ文

拍手ボタンの変身続編

 拍手ボタンをひとつにしてみたところ、いつも携帯で「みそ文」を読んではコメントをくれる友人から、「みそさん、拍手ボタンが画面から消えて、拍手もコメントもできんようになったよ」と教えてくれるメールが届いた。

 FC2拍手(「拍手ボタン」)の設定画面で、携帯からの拍手に対して必要な設定項目をすべて入力して設定しなおしてみたのだが、その友人の携帯では、どうしても、拍手ボタンが表示されない、という。
 彼女は「まあ、ふつうにメールでコメント送ればいいんじゃけどねー」と言ってはくれるものの、やはりブログを読んだその画面から気軽に拍手ができてメッセージを書き込めるほうが、きっとお手軽だろうと思うから、今一度、ブログ拍手(手の形の拍手ボタン)を画面に表示するようにしてみた。

 PCで「みそ文」をご覧くださる方には、手形のマークが少々邪魔かもしれないが、文字で「拍手ボタン」と書いてあるほうのボタンをご利用くださると、巨大な広告の表示に疲れなくて済むので、よろしければ、そちらをどうぞ。
 携帯でご覧くださる方には、今回の手形マーク復活作業により、拍手ボタンが復活しているとよいのだけど。
 
 復活しているとよいのだけど、って、この人、自分で自分の携帯で「みそ文」を見て確認すればよいことなのではないか、と、思われるむきもあるであろうが、わたしと夫の携帯はweb接続しない契約にしているため、eメールのやりとりやブログ閲覧はできないのである。
 だから、自分が書いたものが、携帯画面でどのように見えているのかの実情は知らないに等しい。一応、携帯で「みそ文」や「みそ記」を読んでくれる友人に会えたときには、どんなふうに見えるのか見せてもらったことはあるのだけど、思った以上に簡略化されるのだな、という印象と、よくまあ、こんな小さな画面でちまちまと読んでくれることだなあ、ありがたいなあ、と感心と感謝が強くこころに残っているのみ。

 手形の拍手ボタンを押したときに、PCでは巨大に見える広告ではあるが、友人が教えてくれたところによると、携帯画面では、その広告のサイズがたいへんに小さくて、なんの画像なのか広告なのかすらよくわからず、これまでその存在を気にしたことがなかったのだとか。
 ブログの世界は、あいかわらず謎の大海原だけれども、今日のところはこれくらいでゆるしてやろうとおもう。     押し葉

拍手ボタンの変身

 みそ文につけている拍手ボタンが二種類あったのを、このたびひとつにまとめた。その理由は、いつの頃からか、拍手ボタンを押すと、PC画面に大きな広告が出てくるようになったこと。拍手メッセージ書き込み欄がその広告の下の方にあるのだが、それが一目で見えなくて、画面をスクロールして下にさがる手間が必要になっていた、ようである。
 
 これまで「拍手ボタン第二」という名称で設置していたものを「第二」を外して「拍手ボタン」として残し、手の形の絵のボタンをなくしてみた。「手の形」のほうは広告の消し方がわからなかったのだけど、「拍手ボタン第二」のほうは、拍手に対するお礼のメッセージを変更できる画面を触っていたら、なぜか広告が出なくなったようなので、こちらのみ採用することにした。

 しかしあまりにも、久しぶりに拍手ボタンの設定部分を触るため、管理画面のどこをどう触るとよいのかが思い出せず、今回も安定した手こずりぐあいではあったが、なんとかできたからよし、とする。
 今後の自分にまた何か変更の必要性が生じたときに、作業手順を思い出しやすいように、ここに少し書いておこう。そして、ここにそれを書いたことを、将来の自分が思い出してくれることを願う。

 まず、拍手に対するお礼のメッセージ文言を触る場合は、「FC2拍手」にログインして、「お礼ページの管理」を開ける。「お礼ページ一覧」の中の操作したいフォルダ名の「ページ作成」のアイコンを開けて、「編集」の鉛筆マークを押す。メッセージの文言を変更したいことばに買えたら、「保存」を押す。プレビューを見てそれでよければ、閉じる。プレビューで確認してから「保存」してもよい。

 「手の形」の拍手ボタンを外したり付けたりするのは、「管理画面」の「環境設定」の中の「ブログの設定」の下の方で、「拍手ボタンの設定」のところで「拍手(あり)」か「なし」かを選んで、「更新」ボタンを押す。

 「拍手ボタン第二」の「第二」を付けたり外したりするのは、「環境設定」の中の「プラグインの設定」の「HTML編集」というところの中で、自分がかつてどうやったのか思い出せないのだけれども、かつての自分が挿入したらしい「FC2拍手ここから、FC2拍手ここまで」の間に含まれる謎の文字列の中の「拍手ボタン」という文字部分に手を加える。

 「拍手ボタン」の文字の位置が、記事本文の文末のちょっと右になったが、ここの位置であれば記事本文最終文章中の妙な改行現象が生じないようであるから、今回はとりあえずこれでよしとしよう。ふう。(その後の変更により、「拍手ボタン」の位置は、文末のやや左下となった。)     押し葉

若旦那の修行

 現在、遅々としてはいるものの、「みそ記」にて好評連載中の福島旅行記の番外編。

 今回の旅行中、わたしにとって、何度も気になったことは、宿泊業における従業員の勤務シフトの組み方。宿泊業の中でも、ほぼ家族のみで経営しておられるようなところではなく、ある程度以上の人数の従業員を抱えるような、そして、ある程度社会保険や雇用保険を完備しており、労働基準法の適用もきっとあるんじゃないかな、というような規模と形態の施設について。

 なぜ、突然そんなことが気になりだしたのかはわからないけれど、将来宿の経営でもするつもりなのか、と、自分でも不思議なくらいに気になる。
 わたしが「うー。気になるー。従業員さんの月度勤務表を見てみたいー!」と宿泊先の畳の上でジタバタと身もだえをしていたら、夫が「宿の人に、見せてください、って頼んだら?」とこともなげに言う。

「一応連休でお客様が多くて、大忙しのところに、そんなこと頼めないし、そもそも部外者にはあんまり見せるものではないと思う。ああ、でも、今度、閑散期にどこかに泊まったときには、思い切って訊いてみようかなあ、うーん。誰か知り合いに、アルバイトでもいいから、宿泊業に関わった経験のある人でもいれば、根掘り葉掘り質問できるんだけどなあ。食事のお世話をしてくれる人と、お布団を敷いてくれる人が、別々のところもあるでしょ。布団敷きは布団敷きでペアやチームで作業を片してて、食事の世話とは別に布団隊として活動してる人たちは、食事のお世話係の人のシフトとは、出勤時間や退勤時間が違うんじゃないかなあ」
「あ、そういえば、おれ、大学生の時に、旅館の布団敷きのアルバイトしたことがある。たしかもうひとりのおばちゃんと二人でペア組んで布団敷きまくってた」
「ええー、そうなん? そんなこと初めて聞くよ。なんで今まで黙ってたん?」
「忘れとったけん。今日までたぶん一回も、そこのバイトのこと思い出したことなかったもん」
「それで? それで? シフトはどんなふうに組まれてたん?」
「おぼえてない」
「どうやらくんの勤務時間は?」
「おぼえてない。でも、布団敷きと、お客さんの食事が済んだお膳を広間から厨房に下げる仕事だった、と思うから、実際働いてる時間帯としては、夕方六時から八時くらい、やったんか、なあ」
「あ。そのお膳を下げる方の話は、なんか聞いたことある。修学旅行生のお膳を下げるときに、全部食べきってる子のお膳だと、持ち運びが軽くて、残飯を残飯入れに移す手間がなくていい、って言ってたやつでしょ」
「そんなこと言ったかなあ。でも、そう。食べ残しが多いやつを見ると、食べ物がもったいない、というんじゃなくて、単純に運ぶ重量が重くなるのがいやで、まったくもう、残すなよ、と思ってた。特に女子、残し過ぎ」
「実動が夜の六時から八時として、でも二時間だけのバイト、ってことはないよねえ」
「それはない。だって、一日で五千円くらいもらってたからなあ。時給が千円超えるとは思えんし、八百円として、ハチロク四十八、四千八百円、六時間、そんなもんだったんじゃないかなあ」
「じゃあ、夕方三時から夜九時くらいまでの拘束時間じゃったんじゃろうか」
「おぼえてないけど、まかないが付いてるのがいいなあ、と思って、まかない付きなら、この時間でこの値段でもまあいいか、と思って働いてたのはおぼえてる」
「まかない、は、従業員さんの食事は、みなさん、いつ食べるん? お客さんの夕ごはんの前? あと?」
「おぼえてないけど、前なんちゃうかなあ。力仕事を大量にこなすまえに、がっと食べたんかなあ。おぼえてない」
「どうやらくん、それだけおぼえてない、ということは、他の従業員さんがどれくらいいたかも、どういうシフトで働いていたかも、当然おぼえてないよね」
「うん。おぼえてない。おれのバイトは夜だけじゃったけん、翌朝のことは知らんし。シフトに興味持ったことないし。あ、でも、一個だけ、お客さんから『にいちゃん、修行中の若旦那?』って訊かれたのはおぼえてる」
「若旦那?」
「そう。そこの旅館のだんなさんとおかみさんの後継者なんか、って」
「なんて答えたん?」
「いえ、ちがいます、バイトです、って答えた」
「そうなんやあ。じゃあ、若旦那は、お客様と接触のあるような時間帯に勤務してたってことだよねえ。お迎えやお茶を出したり食事を出したりもしてたってことなのかな」
「だから、若旦那じゃないんだって。それにそういう作業はそれ専門の人たちがしてたんちゃうかなあ。そんなことした記憶ないもん」
「いや、そんなことだけじゃなくて、全体的に記憶がないじゃん」
「仕方ないじゃん。昔のことなんじゃけん。でも、なんとなく間延びした待ち時間が多いような気がした記憶があるような気がするけん、夕方から入って、まかない食べて、布団敷くまで、何してたんやろうなあ」
「お膳を下げたら、そこでお仕事おしまいじゃったん?」
「それが、そのあと、皿洗いをしたかしてないかの記憶も全然ない」
「どうやらくんがバイトしてたその旅館、まだあるのかな」
「あると思う」
「ねえ、今度、行ってみようよ」
「なんで? すっごい、ふっつーっ、の旅館やで。温泉でもないし、料理旅館でもないし、京都旅行するんやったら、もっと使い勝手のいい宿、いくらでもあるじゃん」
「でも、どうやらくんが、昔、ぼく、ここで、バイトさせてもらってたんですよ、って話してさ、そういえば、当時って、どういうシフトで働いてたんですかねえ、とか、話が聞き出せるかもしれんじゃろ」
「なんでそんなこと訊かなあかんねん」
「妻の好奇心を満たすために決まってるじゃん。どうやらくん、わたしらの結婚披露宴のときに、誰かがしてくれた何かの出し物で、わたしのどんなところに魅力を感じたのですか、って質問されたときに、好奇心旺盛なところ、って答えようたじゃん。その大好きな妻の好奇心のためにだね、ぜひ、協力したくなるじゃろ。途中まで話をつけてくれたら、核心のあたりは、わたしが自分で訊くからさ」
「ええー。そんなこと言ったかー」
「言ったの」
「言ったとしても、こいつ好奇心旺盛でおもしろいなあ、と思うことと、そいつの好奇心を満たすのを手伝いたいかどうかは別」
「別でもいいけん、手伝っていいと思うよ。手伝っても、全然、バチあたらんと思うよ。その結果、わたしの好奇心が満たされて、わたしの脳みその中にうれしいの汁がジュバーっと出て、そしたら、どうやらくんも一緒にうれしくなるじゃろ」
「それはともかく、でも、まあ、久しぶりに、行ってみて、客として泊まったらどんな旅館だったのか、見てみるのも悪くないかな」
「当時、どうやらくんに『若旦那か?』って訊いた人は、おっちゃんだったん? おばちゃんだったん?」
「おっちゃん、やったなあ」
「ねえ、そのおっちゃんも、実は昔、そこの旅館でバイトしてた人なんじゃないん? で、その人もバイトしてたときに、かつてバイトしてた人がお客さんとして来たときに『きみ、若旦那か?』って訊かれたんじゃないかな」
「で、今度はおれが、おっちゃんとして、今のバイトの子に『若旦那?』って訊くんか?」
「うん、うん。やってみて、やってみて」
「なんで、そんな輪廻なこと」

 夫とは、結婚して十七年が経過して、結婚記念日の五月二十三日からはたぶん結婚十八年目を歩み始めたことになる。
 きっと、これからも、お互いに、そんな経歴、初耳だよ、ということがいろいろあるのだろうな、と思う。ただ、夫は、わたしもそうではあるけれど、ふたりとも、なにかと忘れることが上手なほうだから、お互いに知らないまま、自分でも思い出すことがないままに、夫婦としての一生を終えることもたくさんあるのだろうなあ。
 とりあえず、今度からは、自宅の布団のお世話を彼と一緒にするときは、「若旦那。シーツのそっちがわ、お願いします」などと声をかけながら共に作業にあたろうと思う。     押し葉

みなみみなみ

 私が利用する美容院の美容師さんには、この春高校一年生になられた娘さんがいらっしゃる。上のおにいちゃんは既に高校を卒業して、県外の学校に進学し、現在は都会でひとり暮らし。

 美容師さんのもともとの話としては、美容師さんご自身が、なかなかものを捨てることができないため整理整頓に支障がある傾向をどうにかしたいと思いながら書店を放浪していたら、まさに自分にぴったりの書籍と出会われて、この本の指南に従うことで、ようやく思い切っていろいろ捨てることができそうなのだ、という内容であった。
 その話の流れで、「実はうちの娘は、今にして思えば、整理整頓が上手というか、迷いなく捨てるのが上手で、まさにその本の教え通りの生き方をしていて、いつも部屋が片付いている」と話される。

「それは、なんとも感心なお嬢さんですね」
「感心ではあるんですが、ちょっと、ものを捨て過ぎなんです」
「捨ててはならないものを捨てるんですか」
「うーん、今回買って読んだ本の判断基準で考えれば、あの子にとってはたしかにもう、そのものに対するときめきがなくなったというか、そのものとの関係性が終了している、ということではあるんでしょうけれど、自分で稼いで自分で買ったものならばともかく、まだ、親に養ってもらっている立場でありながら、つい何ヶ月か前に買ってやったものを、もう要らない、と言って捨てるのを見聞きすると、なんだとー、と思うんです。もったいないとは思わんのかー。もっとものを大切にしろー、と。で、ゴミ箱行きになる直前で救出したものたちを、一ヶ所にまとめて、ほら、見なさい、まだまだ使えるものなのに、あなたがむやみに捨てたものがこんなにあるのよ、と、ときどき諭すんです」
「ああ。それは、そうですねえ、たしかに。そこはそれはそれで重要だ。ものを大切にすることと、消費活動で活躍することって、なかなか折り合いの加減が難しいですよねえ。でも、娘さんは小さいころからそういうふうでいらっしゃる、ということは、将来そういう暮らしができるような経済力も自分に身につける方向で成長なさる、ということではないですかねえ」
「それならいいんですけど、親としては、収入が少ないにもかかわらず物欲が押さえられなくて、買ってもすぐに捨ててまた別のものを買うために、借金を重ねるような子になったらどうしよう、というふうに思うんですよ」
「ああ、そっちの方向で思うと、たしかにそれは心配かも」
「それと、洋服や小物以外にも、あの子、学校の配布物を、なんとも潔く捨てるんです」
「ええと、それで困ることはないんですか」
「困るんですよ、当然。教科書は、学年が終了したその日のうちに、毎年あの子はさっさと捨てるんですけれど、それはまあ、別になぜかそう困らないんですが、このまえ、体操服の申込用紙を自分でわざわざもらってきたのに捨ててしまって。その体操服を申し込む担当の先生が、娘にはちょっと怖いタイプの先生で、ようやく勇気を出してお願いしてもらって来たというのに、なぜかその日のうちに捨ててしまって、何日かして、ごみ収集に出したあとになって、おかあさん、どうしよう、って言うんです」
「ええと、どうしたら、いいんでしょう。もう一度もらってくるのかな」
「娘もだいぶん悩んでたんですけど、もう一度勇気を出して、そのちょっと怖い先生に頼んで、二枚目の申込用紙をもらってきたんですけど、あの子、なぜか、それも捨ててしまってて」
「それは、ちょっと不便そうですね。娘さん、自分に必要なものと不要なものとの見分けはどうしてらっしゃるんでしょう」
「でしょう。ほんと、どうしてるんでしょう。なにゆえあんな子に育ったんでしょう。溜め込みクセのあるわたしが育てたのに。謎すぎるんです。で、もう、その体操服の申込用紙は、三度目はいくらなんでも、頼めない、と。それで、あの子、この春同じ高校を卒業した先輩にあたる人に頼んで、お古の体操服をもらうことにしたんですよ」
「おおー。それは、かしこいじゃないですか。むしろ最初からそうすれば、よかったのに」
「いえ、でも、体操服には、胸のところに名前の苗字が、刺繍で縫いつけてあるんです。だから、あの子、体操服着ると、みなみさん、になるんです。うち、みなみ、じゃないのに」
「名前入りの体操服なら、入学時にまとめて買うんじゃないんですか」
「買ってあるんです」
「え? 買ってあるのに、追加で必要になった、ということですか」
「ええとですね。入学前の案内書類に、体操服はダボダボにならないよう、ジャストフィットのサイズのものを購入して着てください、と注意書きがされていて、生真面目な娘は、その注意書きの注意を守って、自分にぴったりのMサイズを買ったんです。でも、実際入学してみたら、まわりの女の子たちみんな、ジャストフィットよりもひとサイズ大きいサイズをゆったりと着ていて、ここでまた協調性の面でも生真面目な娘は、自分だけがピチピチの体操服を着ることはできない、と、言うものですから、そんなに言うんなら、新しくLサイズの体操服を買う申込書をもらっておいで、って言ったんです」
「ああ、なるほど。今手元にあるぴったりサイズとは別にダボダボサイズがほしくて、なんですね。で、みなみ先輩の体操服がちょうどよく娘さんにゆったりなダボダボサイズだったと」
「そう。しかも、娘は、おかあさん、わたし、うれしい、わたしね、世の中で、みなみ、っていう名前が一番好きだから、みなみ、って書いてある体操服が着れるのがうれしい、って言うんです」
「わあ、ラッキーでしたねえ。それは、きっと、みなみ、って書いてある体操服を着るべくして、体操服の申込書を無意識のうちに捨てる運命にあったんじゃないですか」
「いやっ、そんなことはっ」
「それか、ダボダボサイズの体操服は無料で手に入るよ、しかも大好きな名前のついた体操服が手に入るんだよ、という案内として、捨て捨て妖怪、が、体操服の申込書をサクサク捨ててくれたんじゃないでしょうか」
「うわーん。たしかに、あの子には、捨て捨て妖怪はとりついているかもしれないですが、でも、自分に必要な申込書を捨てたらダメでしょう」
「ダメなのはダメなんですけど、実はけっこうダメじゃくて、本当はそれは必要ないよ、というようなときって、一見過失による紛失に見えるけど、実はより合理的な手立てへの導きであるような、そういう出来事ってあったりしませんか」
「うう。どうやらさんにそう言われると、たしかにそういう心当たりは、いろいろ、ありますけど、でも、いやー。認めたくないー」
「いやなんですけどね、妖怪、ですからね。手ごわいんですよ。それに、まあ、結果的にはよかったですよね。余分な出費なしで、娘さんが希望するサイズの体操服が手に入って。しかも、大好きな、みなみ、の名前のもので」
「でも、どう考えても、うちの子、みなみさんじゃないんですよ。苗字が違うんですよ。でもあの子、苗字も下の名前も両方、みなみ、でもいいなあって言うんです」
「みなみみなみ、ですか」
「みなみみなみ、ですよ。ねえ。ちがうちがう、いろいろちがうよ、あなた、みなみさんじゃないから、苗字も下の名前も両方とも全然みなみじゃないから、って娘には言うんですけれど、娘はご機嫌で、みなみさんにもらった体操服着て、遠足に行きました」
「よかったですねえ。何も問題がないような気がしますけれど」
「いや、でも、今後、体育の授業で、先生がうちの子の名前を呼ぶときに、胸の刺繍を頼りに、みなみ、って呼ばれるんじゃないかと思って」
「うーん。先輩からお古でもらった体操服なので、みなみ、と書いてありますけど、自分の名前は、なになになんです、って説明すれば済むような」
「そうでしょうか」
「というか、そもそも、胸の刺繍の名前と生徒本人の名前との一致性は、あまりそれほど重要視しないような、どうなんでしょうねえ、実際は」
「どうなんでしょう。学校の先生、混乱なさるかな、と思って」
「いや、生徒の中には、最近両親が離婚してまもないなどの事情で、入学前に申し込んだ体操服の苗字と現在名乗っている苗字が異なる場合もあるかもしれないですし、いまどきなんでも新しいものを買ってもらえる世の中で、卒業生のおさがりの体操服を使う生徒は、むしろ感心に思えるんじゃないでしょうか」
「ああ、そうか。世の中いろんな事情がありますもんね。そうか。みなみの刺繍を自分でほどいて、新しくうちの苗字を、どこか、スポーツ用品店とかで頼むかどうかして、刺繍し直してもらったほうがいいかな、と思ってたんですけど、そこまでしなくていいか」
「せっかく、娘さんが大好きな、みなみ、の名前の体操服の、みなみの刺繍部分を外すのはもったいないですよ。どうしても、というときには、みなみ、の文字の、上か下かどこかに、本当の苗字を追加で刺繍して、みなみも、本当の苗字も両方表示するようにしてはどうでしょう」
「あはははははは。そんなことしませんっ」

 世の中の名前でどういう名前が一番好きか、ということを、わたしはこれまでたぶん一度も考えたことがない。そんなところにしっかりと思いが至る美容師さんの娘さんは、将来、善きみなみさんと出会って結婚したあかつきには、嬉々として、みなみ、の苗字を選んで名乗るのだろうなあ。
 そして彼(配偶者)からときどき「おまえはおれの苗字目当てでおれと付き合ってたのか!(結婚したのか!)」と詰問されたりもするけれど、彼女は元気よくニコニコと「うん。そうよ。でも、みなみ、なら、誰でもいいってわけじゃないよ」とこたえる。彼はやや脱力しつつも彼女がいとおしくてたまらない。そんなカップルを妄想しつつ、カットしてもらって軽くなった自分の頭を喜ぶ。     押し葉

踊るりららとDVD(後編)

 同僚が母の日のプレゼントとして、お嫁さん(息子さん夫婦)からもらったDVD。同じ内容のものを一枚わたしにも分けてくれたから、自宅に帰宅して、早速視聴。

 DVDの内容は四部で構成される。
 第一部は、りららちゃんが保育園の学習発表会で「プリキュア(女児に人気のあるアニメーション)」の踊りを踊ったときに撮影されたもの。同年代の女児七名くらいが、異様にのりのりで踊りまくる。
 第二部は、やはり学習発表会で撮影されたものなのだけど、こちらは、女児男児合同で、歌も踊りもあるけれど、台詞もある「劇」。りららちゃんの役は「てるてる坊主」。てるてる坊主の衣装がとてもよく似あっているのだけど、りららちゃんの髪はツヤツヤ過ぎて、キューティクルがツルツルしているせいなのか、衣装の一部であるかぶりもの(てるてる坊主の坊主頭の形の白い半円形帽子)が、つるりつるりとずれて、何度か落下する。そのたびに舞台のはしにいらっしゃる保育士の先生が、黒子のようにすみやかに現れて、そのかぶりものをりららちゃんの頭にぽいとのせる。

 そして、第三部は、りららちゃんの自宅にて撮影されたもので、その内容は最新の「とんでったバナナ」。
 りららちゃんは、昨年の秋に同僚が買ってプレゼントしたピンク色のドレスを着ている。同僚がドレスとセットで購入した髪飾りも頭に飾って。
 りららちゃんは、カメラの前に立つと、何かの合図に合わせて(おそらくりららちゃんのおかあさんからの指令のサインに合わせて)、「ばあば。いつも、ありがとう」と言う。ばあば、というのは、りららちゃんが祖母である同僚のことを呼ぶときの呼び方。
 りららちゃんは続けて、「きょうは、さいごまで、いっしょうけんめい、がんばります!」と言う。それから、「ええと、ええと、ええと、そうだ、さいごまで、いっぱい、がんばります!」と宣言。

 画面の中で、んちゃんちゃんちゃんちゃ、んちゃんちゃんちゃんちゃ、とメロディが始まる。りららちゃんは、ピンクのドレスを着た状態で、「バナナがいっぽんありました。あーおいみなみのそらのした」と歌いながら踊り始める。りららちゃんが踊ると、ドレスのスカートの斜めのラインと裾の線が軽やかにたのしげに揺れる。
 「とんでったバナナ」の一番はとても元気よく、自信満々に、すべての歌とお遊戯を上手にこなす。二番、三番、四番になると、歌詞がだんだんあやふやになり、あやふやなところの歌は声が小さくなり、でも、二番でも三番でも、最後の共通歌詞部分の「バナナはつるんととんでった、バナナはどこへいったかな、バナナンバナナンバーナーナン」のところは常に大きな声で、自信たっぷりに歌って踊る。
 
 その自信たっぷりなところと、自信なさそうなところの、対比があまりにも面白くておかしくて、うひゃうひゃうひゃひゃ、と笑いながら見ていたら、夫が「なになに?」と訊くから、「会社の人のお孫さんがね、わざわざ、とんでったバナナを踊りなおしてくれたの」と説明してDVDを見せる。
 夫が「ちゃんと歌って踊れるところと、あんまり自信がないところの、違いがひと目でわかるな」と言うから、「でしょ」と言って一緒に笑う。
 それでも、りららちゃんは、ちゃんと最後まで、いっぱいがんばって、六番まで踊って歌って、「もぐもぐもぐもぐ食べちゃった」のところまで踊りきる。

 そのあとが第四部で、りららちゃんと、弟のるうとくんが、自宅の居間で仲良く遊ぶ日常の風景。仲良く、といっても、るうとくんが、りららちゃんの持っているものをほしがり、りららちゃんがそれをるうとくんに手渡して、別のもので遊ぼうとすると、るうとくんは今度はりららちゃんが手にしたその別のものを狙ってほしがる、の繰り返し。
 るうとくんがハイハイする姿が、同僚から噂で聞いていた「おしりプリプリ」なハイハイで、そのおしりのプリプリも堪能できる構成。

 きっと、お嫁さん(りららちゃんのおかあさん)は、このDVDを、同僚には内緒で作成されていたのだろう。るうとくんがプリプリとハイハイする途中で、二世帯住宅で同居する同僚が、何かの用事でりららちゃんちを訪れて、何かを言っている声が聞こえる。
 しかし、同僚は、りららちゃんがピンクのドレスを着ていることを不審がる様子もなく、お嫁さんへの用事を伝えたあとは、ハイハイするるうとくんを、おそらく手招きして、「こっち、こっち」と呼ぶ。りららちゃんもるうとくんに「ほら、るうとくん、ばあばに抱っこしてもらいね」と促す。

 こうして、四部構成のDVDは幕を閉じた。

 それにしても、わざわざ「とんでったバナナ」を踊りなおしてくれたりららちゃんもすごいけれど、りららちゃんにピンクのドレスを着せて、踊らせて、撮影して、DVDを作成して、お姑さんにプレゼントしようと思いついて実行するお嫁さんもすごいと思う。 ピンクのドレスは、同僚からの贈り物で、それを着て美しく飾った孫の姿を映像に保存したら、おかあさん、きっと、よろこぶね、と、思う、その愛にしびれる。
 とんでったバナナの振り付けのお手本としては、りららちゃんのお遊戯は、少々こころもとない部分がありはするものの、日本舞踊経験のあるわたしにとって、そのあやふやな部分の振り付けを推察することは、わりと簡単。たとえわたしが推察したものがオリジナルと異なっているとしても、りららちゃんの踊りをベースにわたしがアレンジした振り付けも、けっこういいにちがいない。

 DVDをもらってから何日か経過したのちに、職場で同僚と同じ日のシフトに入っていたときに、「いただいたDVD、孫を愛する祖母のツボを押さえまくりでしたね。おかげさまで、とんでったバナナも思う存分練習できます」と伝える。同僚は「そうでしょー、かわいいでしょー」と少し興奮して、「あのときにお嫁さんが、DVDを作るために、なんかしてたなんて、気がつかんかった」と言う。

「りららちゃんのピンクのドレス、同僚さんが、まえに買ってあげたぶんですよね」
「そうなんですよ。あのときは、ちょっと大きいかな、どうかな、くらいのサイズだったのが、この半年で、ずいぶん大きくなったんですね。背も伸びて、体重も増えて、ドレスが少し小さいくらいになってて」
「りららちゃん、どの歌もお遊戯も台詞も上手で、すっかり滑舌もよくなって、しっかりおねえちゃんになってるなあ、って感心しました」
「えへへ。そうでしょー。わたしもそう思うんです。最近は、人見知りもほとんどしなくなって、知らない人の前でも、はきはきと話せるようになったんですよ」
「大きくなりましたよねえ。以前はここのお店に一緒に来られても、同僚さんやお嫁さんの後ろに、こんなふうに(と同僚の背中のうしろにまわる)うしろに隠れて、ちらちらこちらを見たりうつむいたりしてたのに」
「そうそう。そうでした」
「でも、わざわざドレスに着替えて、とんでったバナナを歌って踊ってくれたりららちゃんにもすっごくありがとう、なんですけど、わざわざりららちゃんにドレスを着せて、おうちで歌って踊る姿を撮影して、DVDを作ってくださったお嫁さんに、ほんとうにありがとうございます、です、と、お礼を伝えていただきたいです」
「ねえ。息子たちは母の日だからといって、これといってなにか自分から特別してくれたことなんてないんですけど、娘っていいですねえ、女の子っていいですねえ、こんなふうにして、ふだん何気なく話したことから、プレゼントを考えてくれるなんて。息子がお嫁さんと結婚してくれてほんとうによかった」
「よかったですねえ。おかげで、わたしまで、DVDを分けてもらえて、大喜びです。ほんとうによくできたお嫁さんですねえ。ありがたや、ありがたや」
「でしょ。うふふふふ」

 結果的にとはいえ、同僚がこんなにうれしそうになったのなら、わたしが「りららちゃんの、とんでったバナナ、のお遊戯を何らかの形で見せてもらいたい」とお願いしてみたのは、お手柄だったのかも、思い切って頼んでみてよかった、口走ってみてよかった、と、満足で上機嫌な気持ちで仕事に戻る。     押し葉

踊るりららとDVD(前編)

 以前、職場の同僚より、お孫さん(りららちゃん)が保育園の催し物で「とんでったバナナ」を歌って踊った話をしてくれたことを書いた。(「バナナとりららと怒りん坊」「バナナと夫とお遊戯を」参照)

 その同僚と、仕事の作業と作業の合間に、たまたまバックヤードで一緒になったときに、「同僚さん。わたし、同僚さんにお願いしたいことがあるんです」と声をかけた。

「なんでしょう。わたしにできることならいいけど」
「このまえの、りららちゃんの、とんでったバナナ、のお遊戯を、わたしもおぼえて踊れるようになりたいので、教えてもらいたいんですけれど、どうしたらいいものかと思って。同僚さんがりららちゃんから習って、それをわたしにここで教えてくださってもいいんですけど、怒りん坊のりららちゃんから踊りを習うのはたいへんすぎるかなあ、と思うんですよ」
「ああ、りららが怒りん坊なのもですけど、わたしが全部の振り付けをおぼえる自信がありません」
「実はですね。あの歌とお遊戯について、家で夫と話をしたんですけど、一番と二番、とか、二番と三番の間にあたる間奏部分に、こう、ばななーん、ばななーん、ばななーん、ばななーん、という歌と振り付けがあるかどうかを確認したいんです」
「えー、歌と歌の間に、そんなのあるんかなあ。でも、何かいい方法があるかもしれないから、ちょっとお嫁さんに相談してみます」
「わわわ。そんな、ご家族にまでお手数おかけするのは非常に心苦しいのですが、でもお言葉に甘えます。ちなみに、確認してもらいたいメロディーと振り付けはこうですので」

 そう話して、ふたたび、バックヤードにトイレ利用のお客様などがいらっしゃらないことをキョロキョロと確認してから、「ばななーん、ばななーん、ばななーん、ばななーん」と歌いながら、両手を腰にあてて、身体を左右に揺らす。
 そこに別の同僚がバックヤードに入ってきて、「あ。どうやら先生に教えてもらいたいことがあって、ここまで来たんですけど、先生の歌と踊りを見たら、何を質問しようと思っていたのか忘れちゃいました。すみません。出直してきます」と言う。
 「いやいや、こちらこそすみません。そういうときには、もと来た場所に戻ると思い出すことが多いですから、一緒に、いま通ってこられた売り場に戻ってみましょう」と話して、バックヤードから売り場に出る。

 その数日後、同僚が仕事を終えて、わたしが休憩に入るときに、同僚が「どうやら先生、見てください。りららのとんでったバナナ」と言いながら、携帯電話を取り出す。
 そして、「うちのお嫁さんに話したら、おかあさん、それなら、りららに踊らせて、ビデオで撮ったのを見せてあげはったら、って言うから、ほうほうビデオね、と思って、お嫁さんがビデオを出してくれるんかと思って待ってたら、いや、おかあさんの、その携帯電話で、って言われて、携帯でビデオってどういうことかようわからんなあ、と思いながら、カメラ機能でカシャッカシャッと、りららに、ちょっと待って、ゆっくり踊って、って言いながら、コマ送りみたいに踊りを撮ってたら、お嫁さんが、おかあさん、それは、なにかが違うと思う、写真じゃなくて動画です、って言うんですよ。携帯で動画って、そんな機能わたしの携帯にはついてない、って言ったんですけど、いやいや、おかあさんのにはついてますって、ってお嫁さんが言って、ほらここ、ほらここ、って動画を撮影できるところに誘導してくれて。いやあ、自分の携帯に動画撮影機能が付いてるなんて、初めて知りました」といっきに説明してくれてから、その動画を再生してくれる。

 撮影の場所は自宅の居間と思われる背景。私服のりららちゃんが、かかとを上げ下げしてリズムを取る。音は小さいけれども、とんでったバナナの音楽が流れているらしい。そして始まる「とんでったバナナ」。りららちゃんは元気よく「バナナがいっぽんありましたー、あーおいみなみのそらのしたー」と歌って踊る。
 同僚に「うわあ、りららちゃん、このために、わざわざ踊ってくれたんですか。ありがとうー。ああ、じょうずー」と言うと、同僚は「ときどき動きがあやしげになるところは、よくおぼえてなくて自信がなくて、ママの踊りをカンニングしてるときなんです」と解説してくれる。

 一番の歌詞が終わって、二番の歌詞が始まるまでの間、背後になにかメロディーは流れているけれど、そこに「ばななーん、ばななーん、ばななーん、ばななーん」という歌はなく、りららちゃんは腰を手にあててはおらず身体を左右に揺らしてもおらず、一番を踊り始める前にかかとを上げ下げしてリズムをとっていたときのように、かかとを上げ下げしてリズムをとって、二番の直前に手の指でニを示しながら「二番!」と言ってから、二番を歌って踊る。
 二番と三番の間も、三番と四番の間も、その後すべての間奏で、りららちゃんはこのかかとの上げ下げと「何番!」を繰り返す。

 同僚と、小さな携帯画面をのぞき込みながら、りららちゃんの踊りに合わせて、わたしも振り付けを真似る。ときどき、同僚と、「ああ、たまらん、かわいい」「ああ、店内放送の音楽がうるさくて、歌がよく聞こえない」とつぶやきながら。

「ありがとうございました。よくわかりました。間奏に、ばななーん、ばななーん、の歌と振り付けはないということがよくわかりました。同僚さん、今の動画、添付ファイルか何かの形で、わたしのメールアドレスに送ってもらえないでしょうか」
「はいはい、メールに添付ですね。えーと、どうすればいいんやろう、あ、メールで送信、っていうのがあるから、これですね。あれ。容量が大きすぎて送信できません、って出てきた」
「あ、そうか。一番から六番までフルで歌って踊ってくれてるから、容量が大きいのか。えーと、じゃあ、どうしたらいいんだろう。ぜひとも自宅でも見なおして、同じ踊りを踊れるようになりたいんですけど、うーん。あ、そうだ。もしも、この動画をウェブにアップしてもらえたら、そこにわたしが閲覧に行きます。家族限定のプライベートモードか何かのときには、閲覧のパスワードを教えてもらえたら」
「えーと、すみません。今の話の後半全然意味がわかってないです」
「ああ、そうか、すみません。同僚さん、パソコンあんまり使われないんでしたよね」
「でも、大丈夫です。お嫁さんと息子に訊いてみます」
「いや、もう、ここまでしてもらって、さらにまたって、それは申し訳なさすぎます」
「いえ、いいんです。どうやら先生がりららのお遊戯見たいって言ってくださってるって話したら、お嫁さん、すごくうれしそうで、張り切って協力してくれましたから。うち、親ばかとばばばかがそろってるんで」
「くう。いいんでしょうか。何かいい方法があるといいんですけど」

 その翌日か翌々日に、その同僚が「息子が言うには、やっぱり、わたしの携帯の動画をそのままメールにくっつけて送信はできないんだそうです。パソコンに取り込むのもそのままではできなくて、なんだっけ、ええと、ええと、メモリカード、とかいうのを携帯に差して、そのカードに動画データを入れて、そのカードを、どうやら先生の携帯に差し替えてそのまま見てもらえるって言ってたんですけど」と言う。

「あ、そうか。じゃ、ここでメモリカード買って、携帯に入ってるりららちゃんが踊ってる画像データをもらえばいいのかな」
「え、メモリカードって、ここの店頭で売ってるんですか」
「はい。もう何年も前から、電池コーナーの隣に」
「うわ。全然知らんかった。でも、それを買ってもらっても、わたしが自分の携帯にそれをどう差すかも、どう操作するかもわからないんで、もう何日か待ってみてもらえますか。たぶん、その、メモリカードというものを、息子は持ってるみたいですから、それを使うかどうかして、どうやら先生に自宅で見てもらえる方法を相談してみましょう」
「うわあああ。気軽にお願いしてみたはいいけど、ご家族皆様の手をわずらわせて、心苦しくてばかになりそうです」
「いいんです。息子も、りららの踊り、もっとちゃんと見てもらいたいなあ、いうて言ってましたから」

 それから、だいぶんたってから、母の日が過ぎたある日、休憩時間の同僚が、作業中のわたしに声をかけてきて、「どうやら先生。りららのお遊戯なんですけど、お嫁さんと息子が、DVDに焼いたのをくれたんですよ。母の日のプレゼントに。そのときに一枚余分に作ったのを、どうやら先生にあげて、って頼まれてるので、あとでお渡ししてもいいですか」と言う。

「えええええっ。DVDだなんて、そんな手間なことをしてくださったんですか」
「わたしがしたわけじゃないんで、手間かどうかはわかんないんですけど」
「それは、ぜひぜひ、いただきたいです。あの、DVDの代金をお支払いしますので、一枚分の相場価格でいいですか」
「何言ってるんですか。お金なんてもらえません。わたしもタダでもらってるのに」
「いや、同僚さんは母の日の母かもしれないけど、わたしは全然関係ないのに」
「いいんです。わたしがもらったものを差し上げるんですから、無料です。それよりも、こんな親ばかとばばばかに付き合って、DVDまで見てもらって、そっちのほうがいいんやろうか、と思います」
「それは、もともとわたしがお願いしたことで、DVDなら自宅で何度も見て振り付けの練習ができて助かるので、ひたすらありがたいです」
「実は、わたしも、DVDもらったばかりで、まだ実物の内容を見てないんで、何がどんなふうに映ってるのかわからなくて、お嫁さんが、おかあさんも声だけ出演してますからね、って言ってて、ちょっとドキドキするんですけど、じゃあ、帰りにお渡ししますね」
「うわああん。同僚さん、ありがとうございます。お嫁さんと息子さんにもくれぐれもよろしくお伝えください」

 そして、わたしは、その日の夕方、同僚から一枚のDVDを受け取った。     押し葉

りららちゃんの七五三

 昨年の秋のこと。七五三の季節に、職場の同僚が「今度、りらら(同僚のお孫さん)の七五三で、家族写真を撮るんですよ」と言う。「大阪のばあば(りららちゃんの母方の祖母。同僚の息子さんの妻の母にあたる人物で大阪在住)が、りららにって、着物一式買って送ってきてくれて。お雛様の時も、七五三の時も、こういうことは母方の祖父母がするものですから、って、高価なものを買ってもらって、いいんかなあ、と思うんですけど」と続ける。

「いいんですよ。りららちゃんの大阪のおばあちゃんも、孫娘に貢ぎたくてうずうずしてらっしゃるんですから。好きなようにさせてあげてください」
「そうですよね。わかります。わたしもりららにかわいい服とかきれいなものを買い与えてやりたくてやりたくてたまらないんです」
「でしょ」
「うちは子どもがふたりとも息子だったから、そういうきれいな着物やドレスを着せてやるたのしさが全然なかったけど、女の子って、着飾らせてきれいにかわいくしてやるのも、それを見るのも、たのしいものなんですねえ」
「じゃあ、りららちゃんは、大阪ばあばに買ってもらった着物着て写真撮影なんですか」
「それがですね、着物だけじゃなくてですね、もう、息子たちには呆れられているんですけど、わたしがレンタルでドレスを借りてやるからってことにして、着物の写真とドレスの写真と両方撮るんです」
「わあ。それはたのしみですねえ。同僚さんも太っ腹ですねえ」
「いや、もう、ほんとうに、インターネットで女の子のドレスとか見てると、あれもこれも買ってやりたくなるんですけど、今申し込んでも撮影の日に間に合わないから、今回はレンタルにして、インターネット通販のドレスは、今度親戚の結婚式に呼ばれてる時用に買ってやることにして申し込んだんです」
「うわあ、さらに太っ腹ですねえ。りららちゃんもお姫様気分が続くなあ」
「本人がどれくらいわかってるかはわからないんですけど、いいんです、わたしが満足ならそれで」
「あはは。そうですよね」

 その後何日かが経過して、七五三のシーズンが落ち着いた頃。同僚が仕事を終え、わたしが休憩に入ったときに、同僚が「どうやら先生、見て見て」と声をかけてくる。同僚が取り出すのは、立派なアルバムにしつらえられた七五三の記念写真。
 りららちゃん単独の着物姿。りららちゃん単独のドレス姿。ドレス姿のりららちゃんとるうとくん(りららちゃんの弟。生後数カ月の赤ちゃん)が見つめあい手を握り合う仲睦まじいきょうだいふたりの写真。着物姿のりららちゃんとるうとくんとおとうさんとおかあさんの家族四人の写真。りららちゃんとるうとくんとおとうさんとおかあさんと、ばあばとじいじ(同僚と同僚の夫さん)と、おいちゃん(同僚の息子さんで、りららちゃんにとってはおじ)の七人の写真。

「わあ。りららちゃん。いつのまにかすっかりおねえちゃんになって。着物もドレスもよく似合いますねえ」
「かわいいでしょう。ばばばかですみません。女の子ってたのしいですねえ」
「こうしてみると、りららちゃん誰かに似てる。あ、同僚さんだ。りららちゃんと同僚さんって、なんだかそっくり」
「そうでしょうか。えへへ。なんかうれしいな」
「りららちゃん、五十年くらいしたら、同僚さんみたいなかんじになるんでしょうか、たのしみですね。特にこの、るうとくんとふたりの写真は、なんというか、写真屋さんの演出もあるんでしょうけど、幻想的で美しく仕上がってますねえ」
「でしょう? 気に入った写真があると、その場でキーホルダーとかストラップに加工して作ってもらえるんですよ。写真屋さんも商売上手ですよね。この写真で、殆ど家族全員、キーホルダー作ってもらったんです」
「殆ど全員、って、あ、そうか、るうとくんは小さいからないのか」
「いや、るうとのもあるんです。作らなかったのは、りららのパパだけ。家族みんなが、この写真いいねーって、わあわあ、言うてるときに、あの子だけはなんか、おまえら大丈夫か、とかいうて、どうかしてるんちゃうか、いうて、作らんかったんですよ」
「あらあ。じゃあ、りららちゃんのおとうさん以外は、みんなこの写真のキーホルダー持ってるんですか」
「はい。ほら(と、キーホルダーの実物登場)」
「わあ。ほんとだ。いい具合にキーホルダーになってる」
「でしょー。わたしと主人とおいちゃんとりららのママは鍵につけて、りららは保育園のかばんにつけて、るうとは、るうとのおむつを入れるバッグにつけてるんです。ああ、こうして話すとたしかに、おまえら大丈夫か、なかんじがしますね」
「まあ、いいじゃないですか。それにしても、りららちゃん、おりこうさんですね。着物着て写真とって、ドレス着て写真とって、あ、ドレスが先なのか、着物の写真とってからその着物姿で七五三のお参りに行くまでずっとだなんて、こんなにちっちゃいのに、よく体力気力がもちましたねえ」
「あ、それは、別の日なんです。そんなの一日じゃ無理ですよー。写真の日は写真だけで、お参りはまた別の日ですよ」
「え、そうなんですか。じゃあ、着物も写真の日とお参りの日と二回着るってことですか」
「そうです」
「え、じゃあ、着付けも髪飾りも別々にしてもらうんですか」
「そうですよ。写真の日は写真館で提携してる美容師の人が着付けも髪を結うのもしてくれるんです、有料というか、写真代に込みというか、なんですけど。で、お参りの日は、また美容院で着つけてもらって髪の毛してもらって、あはは、お金がいっぱいかかるんです」
「ああ、なるほど。だから、このへんは美容院がいっぱいあっても大丈夫なんですね。わたし、こっちに引っ越してきて、美容院があんまり多いから、そんなに近所で乱立してて美容師さんたち商売やっていけるのか、と勝手に心配して不思議に思ってたんですけど、七五三でこれだけ写真に力が入る、ということは、女の子の成人式やブライダルのときにも美容師さんの腕がいっぱい必要ってことで、この写真の時って、同僚さんもりららちゃんのおかあさんも美容院利用してらっしゃるんでしょうし、大丈夫、というよりも、美容院も美容師さんもそれだけ必要とされているってことなんですねえ」
「そうなんですよ。美容師さんたちが儲かるようにうまくのせられてるといえばそうなんですけど」
「いや、でも、それで、本人や家族みんながうれしい気持ちになるんですから、投資しても惜しくないでしょう」
「はい、惜しくないです」
「よかった、よかった」

 そこにビューティー担当の同僚が休憩をとりにやってきて、「あ、それ、りららちゃんの七五三? 見せて見せて」と言い、りららちゃんの祖母である同僚は「見て見て」とうれしそうに手渡す。
 ビューティー担当同僚は「ああー、きれいですねー、かわいいですねー、りららちゃん、同僚さんにそっくりですねー」とアルバムのページをめくる。
 りらら祖母同僚が「息子さんの七五三のときは? 何年か前やったよね?」と訊くと、ビューティー担当同僚は「男の子はねー、なんかスーツっぽいの着せて、お参りして、なんとなく写真撮って、それ一枚だけ。こんなに何枚も写真撮ることも、それ以上なにかすることも、親として全然思いつかなくて」と言い、りらら祖母同僚が「わかる、わかる。うちも男の子二人やったからそうやった」と言う。

 りららちゃんの七五三のドレスは白くてふわふわとしている。「七五三写真のレンタルドレスはこのふわふわの白で、今度の結婚式用に買われたドレスは、また違ったかんじなんですか」と訊くと、同僚は「そうなんですよ。もうね、いろいろ目移りしたんですけど、ピンク色のにしたんです。でも、レンタルのこと思ったら、自分で買うのって、すごく割安なんですよ」と言う。

「そうなんやあ。じゃあ、また、結婚式のときのりららちゃんのドレス写真もできあがったら見せてくださいね」
「あ、そうか。今度の親戚の結婚式、りららは花嫁さんに花束を渡す役をすることになってて、それがなんかドキドキで、写真のことまで気が回ってなかった。でも、そうか、そうですよね、ドレス着た写真も撮ってやらないと」
「そうですよ。せっかく同僚さんがプレゼントするドレスなんですもん」

 両手のこぶしをぐっと握って「そうだ、そうだ。わかった。がんばります」と言う同僚に、「まあ、まあ、落ち着いて、気楽に」と伝えてから、「では、お疲れさまでしたー」と見送る。     押し葉

会津に向かうその前に

 先月の四月二十九日は祝日だったけれど、夫もわたしも出勤日で仕事に励む。翌日の三十日から、夫と旅に出る予定で、夫の会社カレンダーに合わせて、少し長めの連休を取得している。
 わたしは二十九日の仕事で一緒になった同僚たちそれぞれに、「明日からしばらく長めのお休みをいただきますが、不在の間、どうぞよろしくお願いします」と挨拶をする。同僚たちは、それぞれ、みな、こころよく、「よいお休みを」と言ってくれる。

 ある同僚は、「今回は、どのあたりに行くんですか」と訊いてくるから、「福島県を目指してみようと思ってるんです」と答える。同僚は「ああ、それは、いいことですねえ。おいしいものいっぱい食べて、温泉にたくさん入って、福島経済に貢献してきてください」と言う。

 また別の同僚は、わたしが福島旅行を予定していると話したところ、「もしかすると、あちらのへんは、まだ揺れるかもしれないですから、もし、あんまり揺れるようだったら、手前の揺れないあたりで、おとなしくしてきてくださいね」と言うから、「はい。福島でも山側の安全なあたりを考えています。無理せず安全にいってきます」と、おりこうに応える。

 そしてまた別の同僚に「福島旅行の予定なんです」と話すと、「車ですよね。徳島は遠いですから、気をつけて安全運転で橋をわたってたのしんできてくださいね」と言う。
 「いや、四国の、とくしま、じゃなくて、東北の、ふくしま、です。ひらがなにすると一文字しかちがいませんが、方向や内容はだいぶんちがいます」と伝えると、「うわあ。徳島じゃなくて福島でしたか。聞き間違いました。でも、それは、いいですね。旅行でたのしい思いやおいしい思いをして、そのためにお金を使ってもらって、それがめぐりめぐって、福島の復興に少しでも役に立つなら、なおのこと、ぜひぜひ」と盛り上がる。

 三月までは新人二年目くんだった青年同僚は、この四月で入社三年目となり、「新人三年目くん」に変身した。
 帰り際に彼にも「長いお休みをいただきますが、よろしくお願いいたします」と挨拶をすると、先の同僚たちから「どうやら先生、旅行先、福島なんですって」と聞いていた新人三年目くんは少し胸をはって、「安心して、ゆっくり休んできてください。ぼくのぶんも、福島で、しっかりと、お金を使ってきてください」と言う。

 結局、翌日四月三十日は、夫が急遽出勤となり、それでは、と、わたしはゆっくりと一日かけて荷造りをし、旅行から帰ってきたときにぐったりとしない程度に、整理整頓掃除洗濯で家を整えることにして、出発は五月一日となった。

 五月一日に家を出て、高速道路を目指す車中で、夫に、「会社の人たちがね、こんなふうに言って送り出してくれたんだよ」と、先に書いた話をする。夫は「新人三年目くんは、笑わせてくれるのはいいけど、ぼくのぶんも、言うて、ぼくのお金をくれるわけじゃないんやろ」と言う。
「もちろん。気持ちだけだよ」
「そうやろ。だったら、そこで、せめて、では、キャッシュカードを貸していただけますか、暗証番号だけ教えておいてください、くらい、言うてやらなあかんやろ。そこは先輩社会人として、新人くんを、ちゃんと鍛えてやらんと。でないと、新人くんは、自分のぶんもお金使ってくださいって、おれ、うまいこと言うたなあ、どや! になってるで」
「その教育指導は、どういう観点で必要なのかな」
「インターナショナルな話術として」
「インターナショナルって?」
「関西的ボケツッコミのインターナショナルな基本形の観点でに決まってるやろ。でも、あ、あれ? 関西的ということは、インターナショナルじゃ、ないか」
「うん。インターナショナル、じゃ、ないね。新人三年目くんも社会人として、その他の同僚のみなさまも、わたしの勤務先会社も、そのあたりについては、あんまり求めていないみたいだから、無理強いしなくていいと思うよ」

 同僚たちの福島を思う気持ちに応えるべく、そして、新人三年目くんのぶんのお金もしっかりと使う気概を携えて、北陸自動車道を北へ北へとひた走る。     押し葉

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プロフィール

どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

ときどき、思い出したように、いただいたメッセージへのお礼やお返事をリンク先の「みそ語り」に書いています。よろしければ、いつでも、どうぞ、どなたでも、ご覧ください。「みそ語り」では、メッセージをくださった方のお名前は書いておりませんので、内容から、これは自分宛かしら、と推理推察しながら読んでいただければうれしいです。手の形の拍手ボタンからメッセージをくださる場合は五百文字以内、文字の方の押し葉ボタンからメッセージをくださる場合は千文字以内となっております。文字数制限なくお便りくださる場合には、下のメールフォームをご利用ください。

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