みそ文

互角の精神

囲碁修行中の夫が、実家の父(夫の父)と対戦するときには、ハンデをつけてもらっている。ハンデをつけてもらうということは、それなりに円滑にゲームを進めるために、公式な手加減を事前に与えてもらう、ということだと、私は理解している。けれど夫は、「ハンデはつけてもらっても、おやじと俺は互角だ」と言う。私には、夫が言うその理屈がどうにもよくわからなくて、どうしても腑に落ちなくて、この人はいったい何を言っているのかしら、と、不思議に思い、常々疑問を感じてきた。

それが、ふと、少し前に、なんとなく、夫が「互角だ」と言うのは、もしかして、「気持ちで負けない気概」なのかな、と思いついた。勝負はたいてい何事においても、勝つつもりで、あるいは、結果に勝敗があるとしても互角に闘い合う気持ちで、臨むことが大切なものだ。そういう意気込みや心意気は、上達のための基本であり、動機(モチベーション)の維持や高揚にも繋がる。他人と自分の格差に対する冷静な認識が必要なときはあるだろう。けれど、それは本人が本人の中で噛み締めていればよいことで、対外的、言霊的には、「互角」という自分が目指すイメージを、現在形で言葉にし続けることで、その現実を引き寄せる部分もおおいにあるような気がしてきた。

夫は、オンライン囲碁ゲームをしながら、ときどき、「うわーっ、つええええー(強い)!」と感嘆や驚嘆の声をもらす。夫の対戦相手が強豪なのか、それとも観戦中の対戦者たちが互角に強豪ぞろいなのか、と思い、「誰が?」と問うてみる。夫は「俺」と答える。

誰か先生について習っていたり、小さな子どもであったりすれば、師匠や先達の年長者などから、「わあ、上手いなあ」と、頻繁に声をかけてもらっては上達を促してもらえるのかもしれない。けれど、夫は、先生についていないし、小さな子どもでもない。だから、夫は、自分の上達を促すためにも、自分で自分を賞賛して鼓舞するという技を日々使っているのだな、きっと。     押し葉

釣り人魂

本日の校正。「むむぎーが釣ったカワハギくん

甥っ子のむむぎーは釣りが好きだ。むむぎーが義弟(妹の夫)に、「もっきゅん、釣り、一緒に行こう」と言って誘うとき、その言葉には、「もっきゅん、車で送迎して、大人として保護監督をしてください」という意味が含まれる。

義弟も釣りが好きで、釣具屋さんの見学が大好きなようだ。旅先でも観光地よりもまず、その地の釣具屋さんの品揃えに興味を持つほど。地域によって、釣りのできる場所も釣れる魚の種類も異なるから置いてある用具も異なるのが、釣り人魂をくすぐるらしい。妹夫婦が昨夏うちに遊びにきたときも、うちの近くの釣具屋さんで、「むむぎーにはこれをお土産に買って帰ろう」と、疑似餌のような何かを選んでいたように思う。

釣りが好きなむむぎーは、自分で「つりの本」(冊子)を作った。夏休みの自由研究でも学校の宿題でもなく、誰に頼まれたわけでもないのに、釣りに用いる道具や餌の説明から、釣りを行う場合の注意事項や心得などが、手書きの絵と文字で書き込まれている。むむぎーの「釣りのときの注意事項」によれば、「水の周りには危険が多いから、大人と一緒に行くこと」が重要らしい。だから、むむぎーは釣りに行きたくなると、「もっきゅん、釣り、一緒に行こう」と誘う。もっきゅんは釣りが上手で、楽しくたくさん魚を釣るのに必要ないろんなことを、根気よく丁寧に、いっぱい教えてくれるから。そして、それだけではなくて、もっきゅんは大人で、水辺でのいろんな危険から守ってくれたり、危険に対する対処の仕方を教えてくれる人だから。むむぎーの父(私の弟)とは異なる、元他人(妹と結婚するまでは縁戚関係のなかった人物)ならではの距離感が、こういうときには絶妙の、ちょうどよさを発揮するのかもしれない。     押し葉

おならの申告

本日の校正。「パラダイス銭湯

そういえば、上記の頃は、おならをすることが多かった姪っ子だが、最近は、おなかがすっきりとしていることが多いのか、おならの自己申告がほとんどなくなったように思う。みみがーも年齢を重ねたことで、人前でおならをすることへの社会的躊躇が身についたのか、腸内細菌ががんばってくれるおかげでよい腸の調子が保てているのか、そのどちらかなのかもしれないし、その両方なのかもしれない。背丈が伸びて、体重が増えて、新しく自力でできることが多くなる、そういう成長は、本当にありがたくて感慨深いものだ。けれども、外からは見えないところで、体のサイズの成長に合わせて内臓たちのサイズが成長し、その働きもまた大きな体を支えるに足るものとなりつつあることに、成長って偉大だなあ、と思う。そして、やっぱり、いついかなるときにも、整腸は大切だなあ、と思う。     押し葉

四十四の碁盤と碁石

昨日、夫が誕生日を迎えた。四十四歳。結婚したとき、夫は二十八歳で、その後、二十九歳、三十歳、と順を追ってお祝いしてきて、今年が四十四歳だということは、結婚してから十六回「お誕生日おめでとう」を伝えたことになるのだなあ。

今回のプレゼントは、碁盤と碁石にしようと、数日前に決めた。夫は、これまで長い間、ずっと将棋の人だったのに、半年くらい前から突然、囲碁の修行を始めた。修行の場は、インターネットのオンライン囲碁ゲーム道場と、書籍による先生からの指導と自主学習。実物の碁盤と碁石もほしいなあ、と思うことはあるものの、実際の購入にはまだ至っていない。それなら、と、私が、誕生日のお祝いとしてプレゼントすることにした。

インターネットの通販で買える碁盤と碁石のセットを見てみると、いきなり、何万円も何十万円もするものがたくさん出てくる。いやいや、我が家は狭い賃貸住宅暮らしだし、そんなに立派なのではなくて、コンパクトにお片づけができるようなもので、予算は一万円前後で、と希望を具体的にしてゆく。

誕生日の前日の夜、会社の飲み会から帰宅した夫に、「明日の、どうやらくんの誕生日のお祝いに、碁盤と碁石をプレゼントしようと思うんだけど、予算は一万円から二万円くらいまでで、買えるかな」と訊いてみる。夫は、「やったー。ほしいのある。あるあるある」と言いながら、NHK囲碁講座のテキストを持ってきて、その裏表紙の広告を見せてくれる。「ほしいのは、これかこれ」だといううちの、ひとつは折りたたみの碁盤とプラスチックの碁石のセットで四千円台。もうひとつは、折りたためない碁盤と硝子の碁石のセットで八千円台。「買うちゃる、買うちゃる、両方買うちゃる」と言う私に、「両方は要らない、一個でいい」と夫は言う。けれど、「碁盤は折りたためるほうがいいけど、碁石はプラスチックじゃなくて本物の石(硝子など)がいい」という希望があるらしい。それならそのつもりで、この広告を出しているお店のホームページを見てみようよ、と検索して見てみると、やっすいのから、たっかいのまで、選び放題であるらしいことがわかる。それで、なんだか、安心して、誕生日当日には間に合わないけれど、また、ゆっくり選んで買おうね、と、約束してから眠る。

ネット通販もいいけれど、もしかすると、意外と自宅の近くにも、碁盤碁石取り扱い店があるのではないだろうかと思い、誕生日翌日の朝に、検索して調べてみる。隣の市の、うちから車で四十分くらいのところに、碁盤、碁石、将棋盤、将棋駒を、製造修理販売しているお店が何件かあるようだ。それなら、直接お店に行って、実物を見比べて買おうよ、という計画になる。

碁盤屋さんに行く前に、モスバーガーでお昼ごはん。これもお誕生日プレゼントとして私がご馳走。

碁盤屋さんのお店に入ると、おじいさんが一人と、少し若いおじいさんが一人、向かい合って座っている。おじいさんがお店の人で、少し若いおじいさんはお知り合いの方の様子。「碁石と碁盤がほしいんですが」と言って、店員であるおじいさんに相談にのってもらう。折りたたみの碁盤がほしい、という私たちに、おじいさんが出してきてくれた製品は、少し分厚くて立派過ぎたので、「もう少し薄手のものはありますか」と尋ねる。おじいさんは、「あるはずなんやがなあ。どこかなあ。どこかなあ」と言いながら、あちらこちらを探してくださる。おじいさんが探してくださる間に、少し若いおじいさん(店員さんではない)が、「このへんのんとちがうんか? あ、これは将棋やな。でも、こういうかんじのがほしいんやろ」と、接客をしてくださる。しばらくして、お店のおじいさんが、「今、若いもんが、お昼ご飯食べに家に帰ってて、よくわからんが、もう少ししたら戻ってくるんだが」と教えてくださる。「それなら、もう少ししてから、また来ます。三十分くらいで大丈夫ですかね。じゃあ、お向かいの喫茶店で、ちょっとお茶を飲んできますので、その間、駐車場に停めてる車、そのまま置いててもいいですか」「ああ、そうしてくれるかね」ということに。

カフェでお茶も飲みたいね、と思っていたから、本当にちょうどよい展開で、お日様もうららかで、二人ともご機嫌で道路を渡る。喫茶店だと思ったお店は、小さな喫茶スペースもあるケーキ屋さんだった。夫はイチゴとブルーベリーがのったチーズケーキとアイスミルクティーを、私はシュークリームとホットキャラメルを注文。薄暗くもなく、かといって明るすぎもしない、さっぱりとくつろげるかんじのテーブル席に腰掛ける。夫はお店に置いてある雑誌を持ってきて開き、私はお店に置いてある絵本を取ってきて開いて、誰にも聞こえないくらいの小さな声で、静かにゆっくり音読する。そうしているうちに、お店の人がケーキとお茶を持ってきてくれる。「いただきます」と、一口食べて、二人同時に「あ、おいしい」と顔を見合わせる。「こっちに引っ越してきてから、一番おいしいケーキ屋さんかも」「じっくりとしたおいしさがある」と、二人とも大満足で、お皿についたクリームもフォークで丁寧にすくいとって食べきる。お店の窓からは、お向かいの碁盤屋さんの外の様子が見える。さっきのおじいさんとは異なる人の素早い動きが見えて、「碁盤屋さんの若い人、戻ってきちゃったみたいなよ」と夫に声をかける。

お店に戻ると、もうちゃんと、先程のとはまた別の、薄手の折りたたみ碁盤が二種類用意されていて、夫は、「こういうのがほしかった」と言いながら、最初に見せてもらったのよりは薄手で、でも、一番薄いのよりは分厚い「六分板」の碁盤を選ぶ。最初に見せてもらったのは「一寸板」で、それよりは少し薄い。碁石は、直径は同じでも、一番厚みのあるもの(10mm厚)と、一番薄いもの(7mm厚)では、ずいぶんと印象が異なる。その間に8mmと9mmのものもある。夫は「初心者なので、一番薄いので十分です」と言い、「ケースもありますか」と尋ねる。お店のおじいさんは、「一番薄い碁石なら、プラスチックのケースで入るな。厚いのだとこういう鉢になったやつでないと入りきらんのや」という説明とともに、プラスチックケースを出してくれる。そしてそのプラスチックケースに、ビニール袋に入ったままの碁石をぎゅうっと詰め込んで、「ほら、ちゃんと全部入って蓋もできるやろ」と見せてくださる。

「それぞれおいくらなんでしょう」と質問する私に、おじいさんは、「えーと、どうやったかなあ、ちょっと待ってよー、えーと」と言いながら、お店の商品価格一覧表のようなものをじっと見て、「板が二千円で、石とプラケースが合わせて六千円」と言われる。「石だけだとおいくらなんですか」と質問すると、「石は四千円」とのこと。「えーと、じゃあ、このプラスチックの箱だけで二千円するということですか」と言いながら、私が『それなら、プラのケースだけ、百円ショップで買おうかな』と思っていたときに、夫は『それなら、百円ショップで、缶の容れ物買うわ』と思っていたらしい。「ちなみに、厚みのあるほうの石はおいくらなんですか」と尋ねると、「厚いほうは六千円」とのこと。私が「そうですか。実は、板と石とケースと全部合わせて六千円くらいのつもりの予算だったものですから」と言うと、夫が「こちらのお店の、インターネットのホームページで、折りたたみ碁盤と碁石とケースのセットで六千円のが載っていたのを見てきたんですけど、その商品は、どのぶんになるんですかね」と続ける。

すると、お店のおじいさんは、「そうだったんですか。若い者がなんかやってるみたいなんやけど、どれがどれなんやろうなあ。でも、そういうことならいいですよ。その板と石とプラのケース合わせて六千円で」と言われる。私は内心『うわっ、いきなり、二千円のプラケースが、タダかいな』と思いながらも、「わあ、うれしいです。ありがとうございます」と微笑んでお辞儀する。夫も「じゃあ、この組み合わせで、いただいて帰ります。あ、もう、外箱も袋も要らないんで、このまま持ちます」と言うので、私は財布から千円札を六枚出し、お店のおじいさんに手渡す。おじいさんは「領収証書こうか?」と訊いてくださるが、「いえいえ、いいです」と応えて、夫にも「いいよね?」と訊くと、夫も「要らん要らん」と言う。お店のおじいさんは、「あ、碁石には、見栄えをよくするために、油のようなもの、体に害のあるものではないんですが、わざと塗ってありますけど、手触りが気持ちよくなければ、乾いたタオルで拭き取ってくださいね。そのまま使ってもらっても大丈夫ですけどね。あと、うちの碁盤や将棋盤は、木のは、全部うちで作ってますんで、ご要望があれば、どんな素材でどんな大きさにもできますから。ほら、車を停めてもらってるところにも、たくさん木の板が干してあったでしょう。ああやって、板を切り出して乾かすところから、全部うちでしとるんです。よかったら、商品一覧も持ってってください」と、薄い冊子を手渡してくださる。夫と私はにこやかに、「ありがとうございました」と挨拶して、扉を開けて店を出る。

車に乗って、「よかったね。今日は、お昼ご飯も、久しぶりのモスバーガーだったし、碁盤も碁石も実物を見て選べたし、思いがけずおいしいケーキにも出会えたし」と私が言うと、夫は「やったね」と合いの手を入れる。私が運転する横で、助手席に座る夫が「そうだ。もらった価格表でも見よう」と言って、ぱらぱらとページをめくる。少しして、夫が、「あ、あった。一番厚い硝子碁石は、おっちゃん六千円って言ったけど、七千円って書いてあるなあ。俺らが買った一番薄い硝子碁石とプラスチックケースの値段は四千七百円って書いてある」と教えてくれる。「ああ、やっぱり、プラケースだもんね、せいぜい七百円だよねえ。二千円は上等すぎるよ」と私が言うと、「でも、たぶん人によったら、なんかこのおっちゃん、ようわかってないみたいやし、まあ、ええわ、プラケースが二千円でも、合計八千円、払う、払う、て人もいるのを見越した、あの店の戦略ちゃうかな」と夫が言う。

「戦略かあ。あの一連の接客が、演技だったらすごいよねえ。向かいにいた少し若いじいちゃんも含めて。でも、あのお店のじいちゃん、何歳くらいだろう。八十にはなってないかんじかなあ」
「七十代後半ちがう?」
「そうだよね、そんなかんじだよね。でも、そう思うと、ずいぶんしっかりしてはるよね」
「そりゃあ、やっぱり、人相手にして、お金のやり取りしてたら、頭使うからなあ。なかなかボケにくいんやろう」
「そうじゃねえ。商いって、老年の時期をすこやかに生きるための手段として、いいよねえ。碁盤と碁石とケースも、思ったようなものが、思ったような値段であってよかったね」
「うん。よかった。探せば、同じくらいのものが、もっと安く手に入るところもあるんかもしれんけど」
「でも、いいよ。六千円なら、十分に予算以内だし。実物を見比べて買うことができたし」
「それに、あのおっちゃんの接客は、ネット通販じゃ、味わえんしな」

碁盤と碁石が自宅にあると、たとえば、ネットで対戦し終えて、「あのとき、あそこで、あの手ではなくて、こうしていたらどうだったんだろう」「どうしてあそこで逆転されてしまったんだろう」というようなことを試行錯誤して確認や復習をしたり、書籍に載っている内容を自分で応用して転がして考えたりするときに、とても役に立つのだそうだ。

夫の実家では、義父が理髪店を営んでいる。義父は囲碁歴五十年以上のベテランで、お店にも、自宅の居間にも、私たちが帰省したときに泊めてもらう和室の床の間にも、碁盤と碁石を置いている。お店と居間のは折りたたみ式で、床の間にあるのは、四本足がついているでっぷりとしたかなり大きな直方体の塊。昨年末に帰省したときに、初めて、義父に、生の対戦相手をしてもらった夫は、たくさんのハンデをつけてもらっているにもかかわらず、「オヤジとは互角で、たぶんもうじき追い越す」と、謎の豪語をしていた。

今日からようやく、実物の碁石と碁盤で自宅練習できるようになった夫に、「この調子で練習してたら、何十年もしないうちに、おとうさんと互角に勝負できるようになるかもしれんね」と言ってみる。夫は「何十年もかからんって。年末のときは、いっぱいハンデつけてもらったけど、それでも互角じゃったし(私にはその理屈がもうひとつよくわからないのだが。ハンデをつけてもらうということ自体が、互角ではないという証なのではないのかなあ)、たぶんお盆にはもう、ハンデ、前の半分くらいになるし、今度の年末に帰省したときには、初対戦から一年だけど、たぶん、もう、オヤジを追い抜くわ」と、不思議な自信をみなぎらせている。     押し葉

ビタミン元気にカルシウム

休日の夕ご飯は、煮込みうどんにしましょうね、と思いながら準備していたら、携帯電話の着信音に気づいた。私の携帯の着信音が鳴ること自体、どちらかというと珍しいのだが、その着信音に私が気づくのも、やはりまた、珍しいことである。それはさておき。その電話は、職場の新人三年目くんからかかってきたものであった。今日の接客でお薬関係のご相談を承ったもののうち、私に連絡しておくことが必要な事案が二件あるが、連絡メモでは詳細を伝えきれないと思って、電話連絡にしたとのこと。

二件のうち、一件は、顔のシミのお悩みで、お店に相談の電話をかけてきてくださったお客様について。新人登録販売者として可能な範囲でいろいろと提案はしてみたけれども、お客様にはご満足いただけていないご様子だったので、「もしよろしければ、明日あらためて、薬剤師からご連絡さしあげるようにいたしましょうか」と提案したところ、「ぜひそうしてもらいたい」と言われたとのこと。それで新人三年目くんは、私からそのお客様へ電話をかけてほしいということと、その方にご連絡を差し上げるにあたり必要と思われる情報(今日の時点でその方からお聞きした事情とご希望の要点)を連絡してきてくれたのであった。

もう一件は、「ビタカルシウム」という名前の商品をお求めのお客様がご来店くださったが、ビタミン剤カルシウム剤のコーナーにもサプリメントのコーナーにも、その商品名のものが見当たらないことについて。私が「うちのお店には、ビタカルシウムという商品名のものはないですねえ。私が入社して数年以上経ちますが、その間も取り扱いはなかったです」と、新人三年目くんに話すと、「お客様は、何度もうちのお店でご購入くださった、ということなんです。赤いかんじの箱だそうです。でも、会社のマスタ登録(社内取り扱い全商品リスト)で検索してみてもビタカルシウムは登録されてないんです」と教えてくれる。私は、電話をしながら、自宅のパソコンで、「ビタカルシウム」を検索してみるが、画面に表示される商品の写真を見ても、やはり取り扱い経験のない製品だ。「ビタカルシウム」と名のつく商品は二社あるものの、そのうち一社のものは既に製造中止となっており、もう一社のものも一般的に流通している商品ではないようである。

「今、自宅のパソコンで、ビタカルシウムを検索して見ているんですけど、世の中にはビタカルシウムというものはあったみたいですが、うちのお店では、やはり扱ったことがないものですね。箱のデザインはたしかに朱色の部分が多いので、お客様が赤色っぽい箱とおっしゃるのは、この商品の可能性はありますねえ。でも、この商品は製造中止だそうです。あと可能性として考えられるのは、製造中止になったこの商品を、すこやか堂(私の職場)ではなくて、実は元気堂や健康堂のほう(ライバル他社)でご購入なさっていた、か、別の商品と記憶がごっちゃになってるか、でしょうか」
「そうですか。お客様には、調べてから、お電話差し上げることにしているので、やはりうちの会社とお店では、ビタカルシウムの取り扱い実績がないことをいったんお話してみます。それから、ビタカルシウムに関しては、僕もこっちのパソコンで確認してみてから、製造中止情報があることもお話してみます。それで、もし、他社店舗でご購入の場合はそこでお求めいただくか、それでもうちのお店での取り寄せをご希望の場合は、メーカーや卸さんに訊いてみて、市場在庫がまだ残っているかどうかと、うちでの入荷が可能かどうかを確認してから、またご連絡差し上げる、ということにします。そのときには、今日はもう、メーカーも卸さんも会社終わってて連絡つかないので、明日、メーカーや卸さんに確認する段階のところから、どうやら先生にお願いしてもいいですか」
「はい、了解しました。そうしましょう。そのときには、その指示のメモを、私のボックスに貼っておいてください。もしも、それ以外の、別の展開になって、それに対応する必要があるときには、またそのことも連絡してもらえますか」
「はい、そうします。お休みのところにすみませんでした。ありがとうございました。失礼します」

そうしていったん電話を切って、煮込みうどんの煮汁をぐつぐつと煮立てながら、うどんのちゅるりとした食感を想像してうっとりしながら、しばらく過ごす。そうしていたら、なんとなく、職場に電話して、展開の確認をしたほうがよいような気分が大きくなり、おもむろに電話をかけてみる。

「はい。お電話ありがとうございます。すこやか堂、新人三年目です」
「あ、すみません。どうやらです」
「あ、今ちょうど、先生に電話かけようと思ったところでした」
「ビタカルシウム製造中止の件、お客様にご納得いただけたでしょうか」
「それがですね、ちょっとややこしかったんですけど、結論から言うと、解決しました」
「そうですか。解決したならよかったです。ややこしかった話も一応聞いておいたほうがいいですかね」
「はい。お客様に、当社ではビタカルシウムの取り扱い実績がないことをご連絡したところ、そんなはずはない、こっちに引っ越してきてから、このお店に来て、ここのお店の、白衣を着てる人に奨めてもらって、飲み始めてから、ずっとここで買ってるんだから、ここで買った商品に間違いない、とおっしゃるので、ビタカルシウムをお奨めしたのは女性薬剤師だったでしょうか、それとも男性の薬種商だったでしょうか、とお訊ねしたところ、年配の男性だった、とおっしゃったんです。それで、薬種商の先生(現在は資格名は登録販売者に変更となっている)(現在は他店に異動となり当店にはいらっしゃらない)に電話して、記憶がないか、訊いてみたんです。そしたら、やっぱり、ビタカルシウムは扱ったことがないし、ビタカルシウムの相談を受けたこともないって言われて。でも、年配の男性で白衣でという条件なら自分の接客かもしれないから、お客様の手元に、今飲んでいる商品が残っていれば、それを持ってきて見せてくださるように頼んでみたらどうや、ってアドバイスくださったんです。それで、お客様にもう一度お電話差し上げて、事情をお話して、お手元に商品の空箱か空き瓶が残っていますでしょうか、って聞いたら、あるわあるわ、って電話口まで持ってきてくださって、えーとな、箱にも瓶にも、カタセD3(ディースリー)、いうて書いてあるよ、って言われたんです。お客様、それは、ビタカルシウムではなくて、カタセD3なんですか、って確認したら、そうや、ビタミンとカルシウムが入ってるから、うちではビタカルシウムいうて呼んでるんや、って言われました。ああ、それでしたら、カタセD3錠でしたら、たしかに当店で取り扱っております、とお話して、店頭の在庫が二個あったうちの一個を、そのお客様用にお取り置きすることになりました」
「そうですか。それはお疲れ様でした。お客様、素敵、ですね。では、明日以降、そのお客様がご来店くださって、またビタカルシウムとおっしゃったときには、ああ、この方が、ビタカルシウムじゃなくてカタセD3の方なんだな、と思って、客注品置き場を見て、対応しますね。お客様にも、商品名がカタセD3錠であることをご記憶いただけるようにお話してみます。あと他の登録販売者の人たちにも、今後、ビタカルシウムという商品名ご指名でお求めのお客様の接客にあたったときには、カタセD3錠を想定しながら、商品名を確認するよう、連絡ノートにも書いておきますね。ありがとうございました」
「いえ、僕こそ、先生、お休みの日なのに、お手数おかけしてすみませんでした。今度からは、最初に、商品名はビタカルシウムで間違いないのか、ビタミンとカルシウムが成分として入っているもので別の商品名ということはないかどうか、その場で確認するようにします。他の商品のときにも、今日のことを思い出して接客します。勉強になりました」
「私も勉強になりました。では、明日はゆっくり休んでくださいね」
「はい、本当にありがとうございました。失礼します」

新人三年目くんは、先月までは「新人二年目」だったけれど、この四月からは「新人三年目」。着々と成長している。     押し葉

大人のおつかい

お店にご来店くださるお客様は、その商品を求めているご本人様ばかりではなく、ご家族その他の代理やおつかいの方々も少なくない。その商品を使う人が、接客相手のご本人様であるときには、ご指名くださった商品をご案内しながら、詳しくお話を伺い、それならば、ご指名くださったものよりも、こちらのほうがより適しているかもしれません、というような情報提供も可能だ。結果的には、「やっぱり、テレビのコマーシャルで見たので試したい」と初志貫徹な方もいれば、「わあ、そんなんもあるんや。ほんとやわ。私の症状だと、こっちのほうがぴったりやわ。聞いてみてよかったー」と臨機応変に各種情報を取り入れてくださる方もいる。

本日ご来店の中年世代男性は、「アスレッド、はどこですか」と声をかけて訊いてくださった。私は念のため「アスレッドは、アースレッド、虫を退治する煙のような殺虫剤で、よろしいですか」と確認をしてみる。お客様は、「アースレッド? アスレッド買ってきて、って頼まれてきたんやけど、アスレッドじゃなくて、アースレッドなんですか」とおっしゃる。

「はい。アースレッドは、こちらの棚になります。ただ、アースレッドにも、いろいろ種類がありまして、ゴキブリにもノミにもダニにも使うタイプと、特にダニが得意なタイプと、特に強力なタイプなど、ございます。どちらのタイプをお求めでしょうか」
「いやあ。どうなんやろう。ただ、アスレッド買ってきて、って言われてきたから、何するもんかも知らんのんです」
「それは、どうしましょう。お求めのものがアースレッドで合っているといいんですけれど。もしも合っていても、いろいろ種類もありますし、あと、お部屋の広さによっても、使うサイズが違ってきますから、一度、お電話ででも確認してみられてはいかがでしょうか」
「アースレッド以外に、アスレッドという商品はないんですか」
「はい。一番近い名前が、アースレッドだと思うのですが、殺虫以外に何かご使用の目的がおわかりであれば、その分類の商品の中で、アスレッドに似た名前のものを検索いたしますので、教えていただけますか」
「ああ、そうなんですか。いやあ、こまったな」
「あの、もし、よろしければ、お店の電話をご利用くださってもかまいませんので、必要でしたらおっしゃってくださいね」
「あ、それは、大丈夫です。携帯持ってますんで」
「そうですか。では、今、ご案内しましたこちらには、一個ずつバラの商品だけを置いているんですが、こことは別に、あちらの虫対策コーナーに、少しお得な三個パックもご用意してあります。もしも広いお部屋でたくさん必要なようでしたら、あちらもぜひご覧ください。では、確認してから、いろいろ見比べてみていただけますか。わたくし、さきほど作業していたあたりにおりますので、また必要なときには、声をかけてください」
「あ、わかりました。うーん、うーん」

お客様は、本当に困った様子で、でも、使用目的のわからないものを選ぶのはとてもたいへんそうで、だけど、携帯電話を取り出して確認の電話をかけるふうでもなく、アースレッドの棚の前にしゃがみこんで、いろいろと見比べていらっしゃる。お客様の脳内では、もしかすると、記憶の紐が、ひゅるひゅると手繰り寄せられて、ご家庭での家族との会話が再現されているのだろうか。虫退治しなきゃいけないような話なんてしてたかなあ、だとか、そういえば、体が痒いとか言ってたかなあ、というような、鍵的情報の在り処に、お客様の記憶が辿り着いているといいのだけど、と、思いながら、遠くで作業を再開する。

家族に(家族以外の誰かにでも)おつかいを頼むほうも頼まれるほうも、商品の名前は可能な限り正確に伝達し合ったその上で、商品名だけではなくて、できることならば必ず、どういう目的で何をどうするためのものを求めているのかの確認を、お出かけ前に、今一度。     押し葉

行きどき

本日の校正。「カイロとイビキ

上記以来、夫はカイロプラクティックに行っていない。そのためか、イビキもするし、うたた寝もする。やはり、そろそろ「行きどき」なのだろうと思う。     押し葉

記憶の宝物

本日の校正。「こどもだまし

上記の友人と息子くんが、二人で遊びに来てくれたのは、二年前になるのだろうか、それとも三年前だろうか。恐竜博物館のライブラリーで、ゆったりと穏やかに過ごしたあの時間は、私にとっては大切な、記憶の宝物のひとつだ。そういう脳内宝箱に入っている記憶たちは、いつでも、私に、自分の力と勇気の在り処を示してくれる。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

ときどき、思い出したように、いただいたメッセージへのお礼やお返事をリンク先の「みそ語り」に書いています。よろしければ、いつでも、どうぞ、どなたでも、ご覧ください。「みそ語り」では、メッセージをくださった方のお名前は書いておりませんので、内容から、これは自分宛かしら、と推理推察しながら読んでいただければうれしいです。手の形の拍手ボタンからメッセージをくださる場合は五百文字以内、文字の方の押し葉ボタンからメッセージをくださる場合は千文字以内となっております。文字数制限なくお便りくださる場合には、下のメールフォームをご利用ください。

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