みそ文

乳がんの精密検査をもう一度

 今暮らしているところでは私くらいの年齢の女性には二年に一度乳がん健診のクーポンが年度のわりと始めの頃に届く。マンモグラフィーの検査を自己負担金千円で受けられるというもので、このクーポンが届いた年度には乳がん検診を受けるようにしている。一年おきの検査で一昨年の前回は異常なく、四年前の前々回も異常なく、その前の年のなんとなく二年待たずに検査を受けたい気分のときに乳がん検診受診券を自治体から送ってもらい検査を受けた五年前には要精検の結果が出たため大きめの病院でマンモグラフィーと超音波検査を受け直しその結果異常なしであった。そして今回また要精検となった。

 五年前に最初に要精検になったときには『うーん、まずいなどうしよう』という気持ちになったものだが五年の間に職場の同僚たちの何人もが要精検になり精密検査を受け異常なしあるいは要経過観察の結果をもらって帰ってくるのを見たこともあって今回自分の五年ぶりの要精検に対して湧いた思いは『えー、またー?』だった。

 面倒くさくはあっても要精検の結果が出たものを放置しておくわけにはいかない。前回要精検の結果が出た時に受診した少し大きめの病院の受診券を五年ぶりに取り出し受診の段取りをつける。といってもここの病院は特段予約が必要なわけではなく、平日の午前中ならいつでもいいよすきなときにきて、というところなのでそのシステムが五年前とかわっていないかどうかの確認をするだけで済む。

 乳がん検診を受けた女性クリニックで受け取った紹介状と預かったマンモグラフィーの写真を持って金曜日の朝に行ってみた。『紹介状のある方はこちらに』という窓口がありそこですみやかに受付をしてもらえる。診察室では「左乳房のここのエリアに10%の確率でがんがあるかもしれない、という結果だったようですね。乳がん検診でのマンモグラフィーの写真は二人の医師でダブルチェックするシステムですがふたりともが同じ場所でそう見立てているという結果が来ています。ただマンモグラフィーを受けた当日のホルモンの状態によってこういうものが写りやすいときというのもありますので、今日はまた新たにマンモグラフィーで写真を撮らせてもらってそのあと超音波検査でさらに詳しく見てその結果必要そうであれば細胞を採取して検査に出す、という手順で検査していきたいと思います」と説明を受ける。

 診察室を出てマンモグラフィーの機械があるところで撮影をする。技師さんは何度か「痛いかもしれませんが少しだけ我慢してくださいね」と言いながら乳房を片側ずつ寄せてまとめては撮影板に挟み込んでくださる。しかしマンモグラフィーを受けるたびに思うのだがなんだか年々マンモグラフィー撮影時に感じる痛みが少なくなっている。むかし最初に受けた時にはなんと痛いと思ったが今は若干のひっつり感は覚えるものの痛みはほぼまったく感じない。これは技師さん全体の腕が向上しているからなのかマンモグラフィーの機械が痛みを感じにくい構造に進化しているのか、私の体がマンモグラフィーに慣れて痛いと感じなくなってきたのか、の、どれかなのかどれもなのか。

 乳がん検診で要精検になったのは左乳房であったが検査は両方の乳房で受ける。超音波検査のときに右乳房の特定の場所に何度も機械を当てられ、なにか見えるのかしら、とうっすらと思うものの検査室の薄暗さと暖房の加減でとろとろと眠くあまりはっきりとはいろんなことを考えられない。

 超音波検査を終えたらまた診察室前の待合椅子に戻る。この病院の待合スペースの天井には天窓が設けられており陽の光が入ってくるのがなんとも心地よく明るくて持参の小説の読書が捗る。名前を呼ばれてから診察室に入る。今回の検査では乳がん検診で指摘のあった部位には異常はなく、乳がん検診では異常の指摘はなかった右側乳房にしこりのような塊が見られるという結果だったとのこと。ついてはここで再度一緒に超音波画像を見て位置としこりの大きさを確認し細胞を採取して検査に出したいという説明。

 診察台の上に横になり機械でその部位を写す。そしてその部位を自分の指の腹で触り確認するよう促される。しかし先生が「この画面で見ると大きく見えますがこの画面の左端に付いている目盛り一目盛りが1cmですからしこりの大きさは4mmなんですね。4mmくらいではなかなかセルフでの触診ではわかりにくいかもしれません」と言われるとおりなんだかよくわからない。位置の確認を済ませてから細胞採取用の針を刺す。画像の中の塊に棒状のもの(吸引針)が刺さる。針にはチューブと吸引器のようなものがつながっているらしく診察を補助してくださる方が「引きます。動かします」などと言いながら吸引器を操作すると画像の中の塊の中身がだんだんと吸い取られる。

 細胞診の結果が出るまでに1週間かかるのでまた来週結果を聞きに来てください。今の段階ではなんとも言えませんが、可能性としてあるのは3種類で、腫瘍でもなんでもないただの乳腺症、良性の腫瘍、悪性の腫瘍です。しかしたとえ悪性の腫瘍だとしても4mmのサイズであれば超初期のものですから手術で切除するとしても乳房は完全に温存の形になります。との説明を受けてから帰る。

 そして今週の金曜日にその結果を聞きに行った。できれば自分が担当している曜日に来てもらえたらという先生の担当日である水曜と金曜のうち検査結果が出ている金曜日に予約が取ってあったのでその時間帯に。行ってみると「申し訳ないのですが担当の医師は本日急病で休んでおりまして、代わりの医師の診察になりますがよろしいでしょうか」と受付で案内を受ける。ええ、ええ、結果さえ聞ければどなたでもかまいませんわ、と思いつつ「はい」と答える。そして内心で『ああ、先生インフルエンザに罹ったのかな』と思う。

 代理の先生の説明によると検査結果は良性の腫瘍だったとのこと。念のため半年後に再度マンモグラフィーと超音波検査で経過観察をしておきましょうとの提案(もともとの担当の先生がカルテに記入しておられた提案)で半年後に予約を入れる。

 今回要精検になり精密検査を受けた段階ではその日のうちに異常なしと結果がもらえるだろうとたかをくくっていたのだが、別の箇所にしこりが見つかり細胞診を受けることになったことで、そういえば最近胸の保温を怠っていたかもしれない、これは乳房を(乳房に限らず全身に必要なことだけど)もっと積極的に保温してケアしなさいというお告げだったのだろう、と思うようになり、しばらく放置していたシルクの胸パッドをその後毎日乳房の上にあてて保温に努めるようになった。そうやってシルク胸パッドで保温してみるとそれまではたしかに乳房冷えていたわうっかりしていたわと思い至りこんなに冷えていたのではそれは病気のがんにもなりやすくなることでしょうと思う。シルク胸パッドを当てているとほんのりほんわり温かくなんだかとても気持ちがいい。この気持ちよさが好きでこのシルク胸パッドを買ったのにこの冬の温暖な気候でせっかくのシルク胸パッドの存在を忘れていたけれど今回の精密検査でシルク胸パッドの存在とその気持ちよさを思い出すことができてよかった。めでたし。

 
    押し葉

名前の交替

 マンションの大家さんがかわって外壁が洗浄され塗装がきれいになりそれらの作業を行うための足場とその周りのネットが撤収された。10月から工事が始まり11月12月と3ヶ月弱かけての工事であった。マンションをぐるりと囲む足場とネットがなくなるとなんだか見晴らしがよくてのびのびとした気持ちになる。ただこれまでネットのおかげでなんとなくほんのりとマンションの中が暖かく「この冬は寒さが穏やかだけどうちにいるとさらに暖かく感じるね」と思っていたのがネットがなくなるとそれなりに外気の冷たい風が直接建物にあたるからなのか例年ほどではないとはいえそれなりに寒く感じるようになった。

 マンションの管理会社から、工事が終了いたしました、のお知らせの紙が郵便受けに入っていた。きれいにしてくださってありがとう、と思いつつ読み進めると「持ち主様の意向によりマンションの名称が変更となります。これまでの名前に馴染みがあることとは思いますが1月1日からは新しいマンション名をご利用ください」と書いてある。大家さんが変わってマンションがきれいになるのは知っていたけどマンションの名前まで変わるとは思っていなかったため思いがけない感があるがその名前を用いることで新しい大家さんがこのマンションの経営に意欲的に思い入れをもって取り組むことができるのであればそれはそれでいいんじゃないかな。

 しばらくは馴染みの配送業者さんもここのマンションの名前はこれまでの名前で認識されているだろうし、通販関係に登録しているマンション名はもうしばらくしてから、思い出した時に住所等の登録内容の変更手続きをすることにしよう。     押し葉

快適の要件

 最近よく思うのは、これまで生きてきていまが一番快適だなあということ。ここまでくるのにずいぶん長くかかったがここまでこれて本当によかった。頭痛や皮膚のかゆみがほぼない状態で暮らせる日々が続くなんてむかしは思いつきもしなかったことで常時どこかが痛いか痒いかなのが標準の状態だったけど、もしも私がかつての自分のところに出向いて「あなたが今食べてるそれやめると頭痛がほぼなくなるよ」と伝えたとしても当時の私はその食べ物が好きすぎて素直にやめることはできないのだろうと思う。小さい頃の私に直接言ってもだめならその当時食事の内容の決定権を持っていた親に「この子にはこの食材を外してやったほうがいい」と話したとしてもなかなかじゃあそうしてみましょうとはならないだろうとも思う。そんなことしたら食べられるものがなくなるじゃないかと聞いた方は思うだろう。

 食べ物に限らず日々使うタオルにしても衣類にしても親元で暮らし家族全員の洗濯を担当していた頃には思いつかなかった工夫ができるようになったのは結婚して時代が進んでいろんな選択肢に出会えるようになってからのことで今自分が自分に与えているこれらの工夫を親が子に対して施してやるのはなかなか難しいのだろうなと思う。もちろん親は親なりにできることはしてくれる。いろんな病院に連れて行き薬を与えその他有用と思えるアドバイスを得て「なかなかよくならないねえ」「ちょっとはよくなってきたかな」などと言うことはできても根本的な生活環境の調整というのは親自身の生活習慣にも手を入れることになることで我が子のこととはいえ我が事ではないことに関してはあんまり着手しない、するひとはするけれど生活が激変しない範囲でということになりやすい、中には必要ならばと家ごと建て替えたり引っ越ししたりよいと思えるものを積極的に導入し激しく工夫と実践をする親御さんももちろんおられるがそれは多数派というわけではないだろう。この子はそういう弱い個体だと認定するなり弱いながらもそこそこ一応生きてはいるからまあよしとするなりいろんな要素を鑑みて各自各家庭で折り合いをつける。それは意地悪や虐待ではなくてそれ以外のやり方を知らず思いつかないだけで、できる範囲のことはやっており、それまで知らなかった手法を知って一時的に採用したとしたとしても少しよくなったようななんとなく治ったような気がすればそのやり方は終了して元の自分たちの生活習慣に戻す、そのほうが馴染んでいてやりやすいし金銭に限らずいろんなコストが少なくて済むから、暮らしが円滑にまわるから。

 親が馴染んでいる生活習慣以外の習慣の在り方を子に与えるのは親自身の生活習慣の変更も伴うが、自分が自分の生活習慣の在り方を見直し変更するのはわりと自由に差配ができることであるにもかかわらずそれをするにはやはり多少の気概や覚悟のようなものが必要になる。それまでそれが通常であったあたりまえの馴染んでいることを変更するにはとまどいや抵抗が伴うものだから。本人としてはおもしろそうだなやってみようと思うことであるとしても同居の家族がいればその家族の暮らしにまで多少の変化が生じることもある。それでも、おとなになり自分で稼ぎある程度以上の自由な経済力を持ち自分の体を観察し感じ考えなにをどうしたら快適になるのかを工夫し実働しその結果を見てまたさらにそのやり方や在り方を工夫し改善を重ねるのはそういう手間ひまをかけることその手間ひまにかかる思考力や胆力を養う訓練の蓄積があることなどいろんな要件が必要になることなのだろうなと思う。     押し葉

大家さんの交替

 マンションの大家さんがかわった。これまでの大家さんはもともと左官さんだったらしいと聞いていてマンションの外壁内壁廊下床などの壁塗りはとても熱心な方だったのだけどそれ以外のことに関してはあまり熱心ではなかった。たとえば共用廊下の天井の電球が切れて暗くなった時に管理会社に電話して電球の交換をお願いしても一週間経っても二週間経っても交換してもらえず「まだでしょうか、いつごろ交換していただけますか」と管理会社に確認の電話をするとすぐに大家さんから「そんなに急ぐんですか!」と電話がかかってくることがあったくらいに壁塗り以外のことに関してはゆっくりとしているというかほぼ放置されていた。
 私にとっては共用廊下の電球がちゃんと点灯するかどうかはだいじなことなので切れたらすぐに連絡して交換してもらいたいほうだけど、大家さんと同じように共用廊下の電球はついていてもついていなくてもそれほど気にならない住人のひともいて、うちの両隣の部屋の前の共用廊下の電球はもう一年以上切れたままだけど切れたままでずっと交換されることなく、廊下電球の明るさがあるから帰宅した時にバッグから鍵を出すのもらくだし、宅配の荷物を受け取るときの伝票の内容を確認するのもらくなのに、あんなに薄暗くても平気なひとは平気なのだなあ、と感心しながら、今度うちの電球が切れたときには両隣の電球もずっとまえから切れています一緒に交換してくださいと伝えようと思っていた。

 それが、新しい大家さんにかわりました、という案内の紙が配布されてすぐに、その両隣の共用廊下電球が交換されちゃんと点灯するようになった。両隣だけではなくて、それまでは夜に外を歩いたときにマンションを見上げると共用廊下の電球がついているところとついていないところとが飛び飛びにあるのが見えて、なんとなくここのマンションイマイチだなあ感があった。それが全部の共用廊下の電灯がきちんとついているとなんとなく治安がよさそうというかきちんとメンテナンスされている良好物件なかんじがする。

 夫に「新しい大家さんやる気のあるえらいひとなんかもしれん。ずっと消えたままだった共用廊下の電灯が交換されて廊下が明るくなったんだよ」と話すと「えらくなくてもやる気があってもなくてもそこはきちんとするのが本来の大家だと思うけどな。共益費払ってるんやし」と言う。

 そして新しい大家さんは物置の屋根の修繕をされた。大家さんが直接屋根を交換するわけではなくて専門の業者さんが来て作業をされるのだが、これまでの物置の屋根では実は雨漏りがしていたらしく、工事に備えて各自の物置のだいじなものには工事中の鉄粉がかからないようにダンボールかビニール袋などをかけておいてください、の指示に従い我が家も新聞紙をかけに物置に赴いた時に物置のドアの内側が雨に濡れているのを見て、あら、うちの物置も雨漏りしていたとは知らなかったと気がついた。

 物置の屋根の修繕のあとはマンション外壁のクリーニングと塗り直しが行われるらしく、現在マンションの周りにはぐるりと作業用の足場が組まれており、足場の外側には洗浄剤等の建物周辺への飛散を防ぐためのネットが張られている。足場が組まれた状態では「気分は檻の中だなあ」と思っていたけれど、そこにネットがかかると「気分はカゴの中」になった。このネットがあるせいでベランダに干した洗濯物に当たるお日様が何割が弱くなり、ただでさえ日照時間の少ない地域でさらに日照が少なくなるのは一時的なこととはいえ少々残念ではある。しかしこのネットがあるおかげでちょうどよい雨除けにもなっていて、普段ならこれだけ雨が降ったらもうベランダに干していた洗濯物はベランダに吹き込んだ雨で全部濡れてるだろうなあ、帰ったら乾燥機だけで済むか洗濯し直しになるかどっちかなと思いながら帰宅しても雨除けネットのおかげで洗濯物はほとんど雨に濡れておらず若干湿気た程度で済むというメリットが生じている。ネットがある間はこのメリットをありがたく享受しつつ洗濯に励みたい。

 そして新しい大家さんにはまだまだやる気があるらしく、このマンションの一階入り口の扉がこれまでの手押しで開閉するものから自動扉にかわると工事予定表に記載されていた。これには夫も私も大喜び。特に夫は「山の遠征から帰ってきて両手に荷物をいっぱい抱えた状態で体でドアを開け閉めするのつらかったから自動ドアはうれしいなあ」と喜ぶ。

 ベランダ側の外壁の洗浄と塗り直しの時期にはベランダが使えなくなる日もあるらしくその日は洗濯物を外に干せなくなるけれど、今住んでいるところがどんなふうによくなるのかたのしみにしている。     押し葉

まごころを繰り返す

 自分としてはどちらかというとわりと日常的な繰り返しの話法で特段の変哲もない薬の説明だったのに、中学生の女の子と一緒に来ていたおかあさんが「わぁ、すごくわかりやすく説明してくださってありがとうございます。今の説明なら中学生のこの子でも自分の薬のことがよくわかります。(娘にむかって)な?」とおっしゃり女の子が「うん!」と大きく頷いてくれて、ああ、こんなふうにひとの仕事を肯定的に捉えてとっさにその場で感謝の言葉を述べることができるのはなんと聡いことであろうかとじんわりと感心する。そしてそんな母の柔軟で俊敏な対人対話の姿勢と術を見て育つこの女の子はきっと自分のまごころも他人のまごころも丁寧に取り扱うことができるひとに育っている最中なのであろうとまぶしいような気持ちがあたたかくなるようなそんな思いを懐きつつ「ありがとうございます」と伝える。

 日常的な繰り返しのなかでも自分の仕事と暮らしにできるだけ常にまごころを忍び込ませつつ生きてゆけますことを。     押し葉

結婚式のお菓子

 先週の日曜日に職場の同僚が結婚式を挙げた。彼女は今年21歳の医療事務で医療事務の専門学校在学中に実務研修という形で私達の職場に来た。そして卒業後そのまま入社。結婚相手の方は4年おつきあいしてきたひとだというから学生時代もしかすると高校生だった頃からの恋人なのかもしれない。

 彼女の結婚式に列席した薬局長が祝日あけの火曜日に「引き出物でいっぱいもらったからおすそ分け」と小さな個包装のおまんじゅうとスイートポテトを職場で配ってくれた。火曜日の夕方閉店後に翌日配達用の薬を調剤する前の血糖値補給に私がいただいたおまんじゅうは皮がしっとりもっちりとしていて餡までもちもちとした上品な味と食感のそれはおいしいおまんじゅうだった。

 このおまんじゅうは医療事務さん本人の好きなおまんじゅうなのかしら、それとも結婚相手の方の好みなのかな、あるいはどちらかの親御さんのセンスだろうか、まだ20歳そこそこなのにこんなふうに品物をえらんで用意して挙式できるなんてえらいねえ、と感心する。彼女がまだ20歳ちょっとということは親御さんだって私とそう年のちがわない同年代かちょっと年上くらいの方たちだろうにこういう品をセンスよくきちんと選んで我が子の挙式にあたれるなんてえらいなあ、とも思う。しかし彼女が20歳すぎということは彼女のおじいちゃんおばあちゃんもまだまだお若いはずで、ということは結婚式における各種作法についても求められればいくらでも口を出して指南してやれる立場でおられるのかもしれない。

 私がおまんじゅうをいただいたときに一緒にシフトに入っていた別の医療事務さんはスイートポテトをもらった。というよりはスイートポテトとおまんじゅう1個ずつを「ふたりで好きなのを選んで分けて」ともらったときにその医療事務さんが「どうぞ先に選んでください」と言うから「いつも私がチョコやチーズが食べられないからって洋菓子は優先的に選ばせてくださるので和菓子のときはどうぞお先に選んでください、これは私どっちでもいけます」と言うと「いやいや、お願いですから先に選んでください、私選ぶの苦手なんです、どっちにしようか迷い過ぎて疲れ果ててしまうんです、私はどっちも好きで食べられるものなのでどっちでもうれしいから、先に選んでー」と言われて、じゃあお言葉に甘えますと言いどっちにしようかなとちょっとだけ迷ったあと「ではこちらをください」とおまんじゅうをいただいた。

 私におまんじゅうを選ばせてくれた医療事務さんが翌日「昨日もらったスイートポテトめっちゃおいしかったんですよう」と仕事からの帰り道で話す。「わあ、そうなんですか、よかったですね、私がいただいたおまんじゅうもたいそうおいしかったです」と言うともうひとりの別の医療事務さんが「私がいただいたのもおまんじゅうでした、たしかにあれはおいしかった」と続ける。スイートポテトを食べた医療事務さんは「昨日仕事が終わって家に帰る前にお腹が空いて我慢できなくなって制服のポケットに入れてたスイートポテトを取り出して車の中で食べたんですね、うわなにこれおいしいスイートポテトー、とすっごく満足して、昨日はドラッグストアとかいろいろ寄って買い物しないといけない用事があったけどおいしいスイートポテトのおかげでちゃきちゃきと用事を済ませてうちに帰って手を洗うときに洗面台の鏡をふと見たら口の周りにスイートポテトのかけらがポロポロパホパホいっぱいついてて口の周りぐるっと泥棒の髭みたいについてて明らかに『あなた何か食べてきましたね』状態で、ドラッグストアでもスーパーでもレジのひとも誰もなんにも言わなかったけどきっと対面している間『うわ、このひと口の周りになんかいっぱいつけてる』って思っただろうなあと思ってひとりでうわーーーってなって」と言う。
 それを聞いた私達は口々に「うわーっ、それはー」とおののき、薬局長は「いったいどんな食べ方したらそうなるの? それ、さいあくやん」と言い、おまんじゅうをもらった医療事務さんは「ドラッグストアのひととか、ぜったい気づいてますよね」と言い、私は「お店のひと、教えてあげようか黙っとこうかどうしようどうしようと思いながら黙ってることにしたんでしょうねえ」と言う。
 スイートポテトの医療事務さんは「昼間なら車を出る前にささっと鏡を見て確認するのに、夜は暗くて見えないからってそのままにしたのがまずかった、見えなくても念のためにせめて口元を手で払うかティッシュで拭いておいたらよかった」と反省する。

 結婚した医療事務さんは医療事務や調剤助手としての仕事はとてもよくでき患者さんが少々なにかイレギュラーなことを言ってきても落ち着いて対処できて皆彼女ことを頼もしく思っているのだけれど、入社間もない頃は薬局業務そのものではない業務たとえば環境を快適に保つために灯油ファンヒーターに灯油を補給するであるとか洗い場のシンクの下水管に漂白剤を入れてしばらくつけ置きしそれを流したあとでシンクと排水口を掃除するなどの作業をお願いしたときに彼女は「はい」とすぐに取り組んでくれるのだけどファンヒーター内蔵の灯油タンクを取り出して持っていくのではなく灯油置き場の灯油がなみなみと入っているポリタンクを「お、重い…」と言いながら運んできてファンヒーターの横で給油しようとするなど『ああ、そうか、おうちではおとながやってくれるからこういう作業をすることがなかったのね、学校でも習わないよね、こういう作業をするのは今回が生まれて初めてなのね』と思うことがありその都度誰かが「これはこうやってするんやよ」と教えると「ああ、そうか、そうなんですね」と素直に瞬時にやり方をおぼえて今ではなんでもこなしてくれるようになりいつでも安心して任せられるようになった。
 そういう出来事があるたびに彼女よりも少し年下の子を持つ親である同僚は「そうやんなあ、考えてみたらうちの子もまだ自分で灯油入れたことないしシンクや排水管の掃除もさせたことないわ、今のうちからやらせといたほうがいいんやねえ」と言い彼女よりも少し年上の子を持つ親である同僚は「そういえばたぶんうちの子にもそういう仕事をさせたことがないままだったけどうちの子は会社に入ってそういうのちゃんとできたんやろうか、会社で教えてもらったときにこんなふうに素直に習えてたらいいけどどうだったんだろう」と言い、私にもしも子がいれば彼女と同じくらいの年の子がいてもおかしくないと思うとその子を彼女のように働き者で仕事が早く気が利く素直な子に育てることができただろうかと思い、皆がそれぞれにその医療事務さんのことは我が娘ではないけれどなんとなく娘を思うような気持ちで見守ってきたこともあり、そんな各自の感慨と慈しみの気持ちをこめて彼女の結婚を寿ぐのであった。     押し葉

新義母電

 お盆に帰省したときに義実家の電話が新しくなっていた。「わぁ、おかあさん、電話新しゅうしちゃったんですね」と言うと義母が「あれ以来わたしゃあ電話恐怖症みたいになってしもうてから、あんまり怖うて仕方がないけん、かかってきた電話番号がわかる電話を買うてきたんよ」と言う。

 あれ以来のあれとは「詐欺顛末」の一連。「うんうん、おかあさん、わかるわかる。ああいうことがあったあとは恐ろしゅうなるもんじゃけん。電話機の便利な機能で済むことはどんどん利用して恐ろしゅうないようにちいとでも(少しでも)安心なようにしときましょう」と言う私に義母は「でもおとうさん(夫の父、義母にとっては配偶者)は『そがあな(そんな)電話機は要らん。これまでの電話(薄緑色のダイヤル式の電話)に戻せ』いうて言うてんじゃけど私が『とりあえず一年使うてみようや。それでやっぱり元の電話のほうがええいうことになったら戻そうや』言うて前の電話はほらここに置いてあるんよ」と言う。

 ああ、そういえば、十数年前に、ある対人的なトラブルにより私がナンバーディスプレイ機能はもちろんのことそれを元に着信拒否設定ができるような電話機を買い求めたときに当時の夫(今の夫と同一人物だが)は「そんなもの要らんやろう」とひどく拒んだことを思い出す。あのとき私は「どうやらくんには必要ないならどうやらくんはその機能を使わなければいいよ。私は自分に必要だと思うから自分で買って使うから」と言い張り着々と購入設置設定した。そういうときのそのへんのとっさの一言がここの父と息子はよく似ているのかしら。結局今は夫も我が家のナンバーディスプレイ機能には随分とお世話になっていて、自分が用事のある電話(家族や知人からの電話や用事のある業者さんからの連絡たとえば山用品屋さんからの「ご注文の品物が入荷しましたよ」のお知らせなど)なら出るがそうでなければ出ないというふうに便利に使っている。

 そういえば私がおしり洗浄機能付き便座を買うことにしたときにも夫は「そんなもん要らんやろう」と購入設置に否定的だった。今住むマンションの便座にはおしり洗浄機能は付いておらずその便座を取り外して自分で買ったおしり洗浄機能付き便座を設置することにしたとき。あのときも私は「うん、私はおしりを洗って気持よく過ごすけど、どうやらくんはこれまでどおり洗わず過ごしたらいいよ。おしり洗い機能を使いさえしなければこれまでの便座と同様に使えるから」と言って注文した。夫は「いや、あるんなら使う」と言いよどみ、設置(設置作業には夫も協力してくれた)後は便座を温める機能など私はまだ冷たいままでいいなと思う時期でも夫は積極的にスイッチを入れて利用している。

 話を電話に戻そう。息子の名を騙る詐欺電話があったあと義母は実家にほど近い小さな家電製品店(大手家電製品店の出張所のような店舗)で「電話番号が表示される電話をください」と言って買い求めたという。お店のひとはナンバーディスプレイ機能がついた電話をつなぐだけでなく、NTTにナンバーディスプレイの申し込みをして月々の利用料金が必要となることを説明してくれる。そのときその店舗にあるナンバーディスプレイ機能付きの電話機はFAX機能もついている一種類しかなく値段も親機子機のセットで一万円ほどだったが義母はすぐに購入して持ち帰りナンバーディスプレイの申し込み手続きをした。

 新しく購入したナンバーディスプレイ機能付き電話を義母がどのように利用しているのか訊くと、FAXは使う気がないから紙もなんにも入れておらず、ただただかかってきた電話番号を電話の前のメモ用紙に書き留めてから電話に出る、という。もちろんそれでもいいのだが、「おかあさん、この電話機じゃったら、安心して出ていい電話番号の人は名前を登録してその名前が表示されるようにできますよ」と言うと義母は「え、そんなことできるん? 携帯電話じゃなくて家の電話なのに?」と言う。「この電話の取り扱い説明書ってありますか」と問うと「捨てちゃあいけん思うてここに取ってある」と出してくれる。「おとうさんが勝手に捨てたらいけん思うて『捨てるな』いうてメモも書いて入れてある」とも。

 取扱説明書をめくりながら「おかあさん、この電話機はナンバーディスプレイの電話番号表示はもちろんしてくれますけど、もしもどうしてもおとうさんがナンバーディスプレイなんか要らんって言うちゃってナンバーディスプレイを解約したとしても、ここの、このボタンを押すと電話をかけてきた相手のひとに『名前を名乗ってください』いうて機械の声が伝えてくれるけん、それで相手のひとが『誰々です』いうて名乗っちゃってからこの人なら安心して出ましょうと思って出ることもできるんですよ」と言うと「ええっ、なにそれ、そんなものがあるん?」と驚く。「うん、おかあさん、この電話機はこの機能が売りでそのぶんいいお値段がする電話機じゃけん。受話器をあげんでも相手の声は聞こえますよ」と言うと、「そんなこと全然知らずに買うて使いようた」と義母は言う。

「おかあさん、あとね、このボタンを押して相手に名前を名乗ってもらったとして、知っとるひとならそのまま出りゃあええけど、全然知らんひとじゃったりこっちには必要のないセールスなんかのときにはこの『おことわり』いうボタンを押すと機械が『恐れ入りますがこの電話はおつなぎできません』いうて電話を切ってくれるんですよ」
「えええええっ、そんなことまでしてくれるん?」
「それかこっちの『ストップ』っていうボタンを押すとそのおことわりさえも流さずに受話器をあげんでもぶちっと電話を切ることもできるけど、それは相手にあんまり気の毒かなと思うてんようなら『おことわり』ボタンを押してあげたほうが相手の人に対してもじゃけどおかあさんのこころが穏やかかもしれんけん」
「あはははは、ほんまじゃねえ、そりゃそのほうがええねえ。でもこのへんの年寄りは短気なけん、電話機の機械の声で名前を名乗れじゃことのいうたら怒ってしまうひともおるかねえ」
「ああ、この家はまだおとうさんが散髪屋さんしようてじゃけん、お店に用事があってかけてきてんひともおってですもんねえ。おとうさんがお店をしようてん(しておられる)間はナンバーディスプレイされるようにしといて、市外局番市内局番がここの家と同じところからじゃったら町内のひとからだと思ってもしかしたらお店のお客さんかもしれん思うて出ちゃったらいいんじゃないですかねえ。市外局番が親戚筋や知り合い関係で心当たりのない番号だったり知らない携帯番号からのときには名前を名乗ってもらってからでもいいんじゃないでしょうか。それでもしも実はお店のお客さんからだったときには『最近詐欺電話が多くて往生しょうるんです』いうて説明したらわかってくれてじゃと思いますよ」
「ああ、そうか、それなら電話番号を全部書き写さんでも番号の最初のほうだけ見て町内か市内じゃいうてわかったら出てもええねえ」
「うん、おかあさん、電話番号書き写そうとしてメモしとってじゃけど、途中で力尽きて最後の4桁まで書けてないのが多いし」
「そうなんよ。しかしこの電話機に電話番号表示以外にそんな便利な機能がついとるとは、わたしゃあ全然知らんかったわ」
「せっかく一万円出して買うちゃったんじゃったらFAXは使わんにしてもこの『名を名乗れ』ボタンは活用したほうがええですよ。この機能は他の電話機にはなかなか付いてない機能じゃけん」
「わかった、機械が言うてくれるんなら自分で言わんでええけん気がらくなわ」
「ほうでしょ。それに機械がそういうて『名を名乗れ』いうて言うだけでも面倒くさがりのセールスや詐欺は退散する傾向があるらしいですよ」
「それはそうなんじゃろうねえ、それだけでも助かるねえ」
「じゃ、あとは、おかあさんの携帯電話に入ってる登録電話番号はこの新しい電話でも名前が表示されるように登録しときますね。これでたとえばえりりちゃん(夫の妹)からかかってきたらナンバーディスプレイのところに『えりり』いうて名前が出るけん電話番号の数字は表示されんけど名前の文字を見てこの電話には『名を名乗れボタン』は使わなくていいなって判断できるでしょ」
「ありゃあ、みそさんはそんなこともできるんね、すごいねぇ、ありがとありがと。番号じゃなしに名前が出るんならそっちのほうがなお安心じゃわ」
「いえいえ、私がすごいんじゃなくて電話がすごいんですけどね。あとこの電話は親機も子機もワンタッチボタンがあるけん、ワンタッチボタンの1番を押したらうちにかかるように、2番を押したらえりりちゃんにかかるように、3番を押したらおかあさんの携帯電話にかかるように設定しときますね」
「え、そんなこともできるん? 私の年寄り向けの携帯とおんなじじゃが」
「そうそう、おんなじです、おかあさんの携帯とおんなじ感覚でこのワンタッチボタンを使うちゃったらいちいち番号調べんでも電話番号の数字のボタンを全部押さんでも電話がかけられるけんらくなですよ。ではさっそく練習におかあさんの携帯にかけてみますよ」

 そうして義実家の新しい電話から義母の携帯に電話をかけ、今度は義母の携帯から義実家の電話にかけて『あんしん応答』ボタンを押したときに「迷惑電話対応モードになっています。お名前をおっしゃってください」と流れる音声がどんなふうに聞こえるのか、『おことわり』ボタンを押したときの「おそれいりますがこの電話はおつなぎできません」が実際にどんなふうに聞こえるのかを義母に体験してもらう。義母は電話機の音声のその失礼のない話しぶりが気に入ったようで「これならこのへんの年寄りでも怒っちゃあないかもしれん」と言う。

 その後メモ用紙に「あんしん応答ボタン」と「おことわりボタン」の使い方、ワンタッチボタンの使い方を大きめの濃い文字で書き「使い方はどうだったかな、取扱説明書を開くのは面倒くさいな、というときにはとりあえずこのメモを見ながらやってみてください」と一通り復習するような流れで義母に電話機のボタンを触ってもらいながら説明し、そのメモを取扱説明書が入っているビニール袋に入れる。義母が実際にこれらの便利機能を使うかどうかはわからないけれど、私の立場で、年に一回の帰省の限られた滞在時間内に、できるだけのことはしたよね、これでもまだまた義両親が(主に義母が)詐欺電話で難儀するようなことがあれば次の対策を考えよう。しかしナンバーディスプレイ電話機を息子夫婦(夫と私)や娘(えりりちゃん)が買い与える前に自分で買ってきて設置したおかあさんえらい。     押し葉

洗濯機の内蓋

 洗濯機の修理に来てもらった。そして洗濯機の不具合は簡単に解決しまた元気に洗濯物を洗ってくれている。

 今の洗濯機を購入したのは2014年5月だから二年数ヶ月前のことになる。それまでは結婚したときに父が買い与えてくれた家電製品一式のうちの洗濯機『静御前』を二十年近く愛用していた。二十年前には作動音が少なく静かなのが売りの製品で名前が静御前だったが今にして思うとそれほど静かではなく今の洗濯機に買い換えたときに今の洗濯機の作動音があまりに静かなのに驚きこれまでの『静御前』での洗濯ではどれほど同じマンションの上下左右のお部屋の方たちにご迷惑をおかけしたのだろうかとよくぞ誰も何も言わず放置してくださっていたことだと申し訳なくありがたく思ったほどであった。

 今の洗濯機は『静御前』よりも作動音が静かなのはもちろん、静御前で仕上げた洗濯物は脱水によりのしイカのようにペターっとした布片になっていたのが、そして場合によっては洗濯物同士がからみ合って一部結ばれたようになっていることがありそれを干すときに一個一個取り外すのに手間がかかることがときどきあったりもしたのだが、今の洗濯機は脱水後にほぐし作業をしてくれるため脱水後に取り出した洗濯物は相互にからまることもなくそれぞれをつまみ上げて干せばよい。そしてそのほぐし作業をしてくれるおかげで洗濯物が乾いたあとの感触が以前はパリパリしていたのから今はふんわりにかわった。

 静御前も今の洗濯機も縦型全自動洗濯機。ドラム洗濯機の存在は知っているし何度かあちこちで利用したことはあるのだけれど私は縦型全自動洗濯機が好きなので買うときに選ぶとしたら縦型でドラム式は候補にもあがらない。縦型の機種の中で機能の内容と大きさその他を鑑みて選ぶことになる。

 今回の洗濯機の不具合は内蓋に生じた。静御前には内蓋はなく外蓋だけだったのだが今の洗濯機は乾燥機能付きにしたため乾燥時に洗濯槽を高温に保てるようきっちりぱっちり蓋ができるパッキン付きの内蓋がついている。静御前で洗濯していた頃にも他社の縦型全自動洗濯機には内蓋がついているものが既にあった。その他社製品には乾燥機能がついているわけではなく内蓋の存在は洗濯槽の水しぶきが飛び散らないようにする目的のものなのでパッキンなどはついていないわりと簡易なプラスチックの半透明のもの。

 静御前を使ってきたときはずっと乾燥機能なしでやってきたので買い替えのときに今後も乾燥機能はなくてもいいかなどうかなと考えながら店頭商品を見比べてみたのだがそのときには乾燥機能あるなしでの価格差があまりにも小さかったので冬に雪で洗濯物を外に干せないあいだサンルームで乾かすにしてもタオル類だけでも乾燥機で乾かせば他の衣類をサンルームで干すのにも空間に余裕ができて除湿機で乾かすのもこれまでよりも乾きやすくなるかもしれないと期待し乾燥機能付きを購入した。そうして縦型全自動洗濯機の乾燥機能を使ってみたらタオルのふんわりかんわりな仕上がりが高級ホテルのタオルみたいでそれはそれでたいそう幸福。だからといってタオルを毎回乾燥機乾燥するかというとそれはなく、外に干したものの雨で乾きがあと一歩二歩三歩なかんじでこれから除湿機に当ててもなんか雨臭いにおいが残りそうというときに半乾きのタオルを乾燥機で乾燥すると高温熱風により無臭の(高温熱風臭はする)ふかふかタオルが仕上がる。あるいは洗濯物が多いときに他のものはサンルームに干してコットンタオルだけを脱水後乾燥することも真冬には何度かある。これは半乾きから乾燥するよりも時間が多くかかるがこれまたふんわりかんわりといいかんじのタオルに仕上げてくれる。しかも冬に乾燥機を使うと洗濯機周辺がほんのり暖かくなりその暖気が屋内に流れほどよく暖房効果をもたらしてくれるのもよい。

 洗濯機の内蓋は洗濯物を出し入れしている間は外蓋とともに開けたままにしておくものなのだけど、ここ数ヶ月くらいだろうか、外蓋と内蓋を開けて洗濯カゴの洗濯物を洗濯槽に入れている最中に内蓋が勝手にパタリとおりてきて閉じたり、できあがった洗濯物を取り出している最中に内蓋が閉じてきてうっかりしていると洗濯槽と内蓋に手を挟まれたり、ということが頻繁におこるようになった。そんなだから洗濯物を取り出すときには洗濯機の横にぶら下げた洗濯バッグに洗濯物を移し替えつつもう片方の手で内蓋がおりてこないようにおさえたりおさえないまでもすぐに元に戻せるように片手を待機させておくことが続くようになった。それは毎日軽微ではあるが身体精神への負担となり私の洗濯のよろこびを日々毎回わずかに削ぐ。

 取扱説明書を熟読したがそういう不具合に関する案内はない。これは一度お客様相談室に電話してなにか家庭でできる対策があるかどうか訊いてみようと決める。取扱説明書の最終ページに記載されている相談先は「お問い合わせ」と「修理依頼」の電話番号が別々に書かれておりいきなり修理を依頼するわけではないからまずはお問い合わせ窓口に電話する。取扱説明書と購入時の領収証と期限の切れた保証書を手元に準備して。

 オペレーターの方に「洗濯機の内蓋の不具合について相談したいこと」「使用中の洗濯機の型式番号」「購入年月日と販売店名」「メーカー保証期間は切れており販売店の延長保証には加入していないこと」を伝えたあとで現状を説明する。オペレーターさんは「その状態でしたらまずお客様に確認していただきたいことは、洗濯機の操作パネルの左側のあたりにあります水平確認窓で液体の中の空気が水平枠の丸の中に入っているかどうか見ていただきたいんです」と言う。「はい、それでしたら確認済みですが、水平枠の丸の中の十字のちょうど真ん中に空気の球の中心がきているわけではないものの枠の丸のなかにはきちんと入っております」と伝える。「そうですか、そうなりますと、もうお客様にしていただけることはなにもないということになりますので、一度点検に伺い診断の上で修理が必要であれば修理ということになります、ただその場合はこちらではなくエコーセンターという修理専用窓口にあらためてご連絡いただくことになるのですが」と案内くださる。「水平窓口確認以外にはできることはないのですか、そうですか、わかりました、では、修理窓口の電話番号を、あ、取扱説明書のここに書いてあるこの番号がそうですね、ではまた修理をお願いするかどうか検討しまして相談してみることにいたします」

 夜帰宅した夫に「今日洗濯機のメーカーさんの問い合わせ窓口に電話して内蓋のこと相談したんだけどね、水平状態の確認以外にはうちでできることはないらしくて、あとは修理依頼するかどうかになるんだって」と話す。夫はどれどれと洗濯機の外蓋と内蓋を開けて閉めてまた開けて「内蓋たしかにふらんふらんしてるもんなあ」と言う。
「私もあちこち見てどこかネジを締めるときゅっとしっかり自立するかなとか見てみたんだけどネジで固定してあるわけじゃないみたいなんだよね」
「そうやなあ。でもこれやったら、内蓋を開けた時に背中側に折りたたまれた外蓋があるそこに内蓋と外蓋の両方にマジックテープかマグネットをつけて洗濯物の出し入れをしている間それで蓋が開いたままの状態を維持できるようにしたらいいんじゃないかな」
「うーん、それでもいいのはいいけど、でもそれだと今度は蓋を閉じるときに毎回マジックテープをべりべりっと剥がすとかマグネットの磁力の程度にもよるけどその磁力に抵抗して蓋を動かす力が私の手にかかることになるでしょ。手指の痛みが出にくいように手にかかる負担を減らすように努めている私としてはそれよりもやっぱり本来の内蓋を開け閉めすればいいだけのほうがいいな」
「でもそれで当面解決するんならそれでええんちゃうかな」
「どうやらくんがその取り付けをしてくれるなら止めないけど、自分でマジックテープやマグネットを買ってきて裏面を接着させる手間をかける気は私にはないなあ。まあ、内蓋も毎回必ずパタパタ閉まるというわけではなく洗濯物を出し入れする間くらいは自立してくれて出し入れできて出し終わって干してる間に勝手にパタンと閉じることのほうが多いから、急ぎではないけど、修理依頼するかどうか考えながら使ってみてるから、その間にどうやらくんも何かいい方策を講じられそうならぜひ協力してほしいの、我が家の洗濯の快適のために」
「おー。わかった」

 それから約ひとつき(もしかすると数ヶ月)が経過して昨日『ああ、もう洗濯機の内蓋の修理をしてもらおう』と思い立つ。洗濯機の蓋が勝手に閉まって来て洗濯物の出し入れに支障があるというのはやはり日々洗濯機を使ううえにおいて正常でも適切でも快適でもない状態だもの。

 取扱説明書の修理依頼窓口の電話番号にかける。洗濯機型式番号と状態と、以前相談窓口で水平確認をするよう教えてもらいそれ以上はもうできることがないので修理依頼窓口に連絡するよう案内いただいたことを伝える。オペレーターさんは「お客様がご購入になった販売店と年月日はおわかりですか」と問われる。ああ、そういえば前回は購入時の領収証とメーカー保証期間の過ぎた保証書も手元に用意して電話したけどあのあとあれはどうしたのだったかしら取扱説明書や保証書類を置いているここのどこかに片付けたのかしらと探しつつ電話を続けるが見つからず「申し訳ないのですが今すぐ手元にわかるものが見つかりません。ただメーカー保証期間を過ぎていることはたしかですし、販売店の延長保証に追加で加入はしておりませんので、修理に必要な出張経費と実費はこちらに請求してください」と伝える。前回電話したあとにもう保証もないものはなくていいかと思って領収証と保証書を私は捨てたのかしら、とも思うけど捨てたのかどこか別のところに片付けたのかの記憶もない。「販売店名と購入年月日がわからないと修理になにか支障がありますでしょうか」と訊ねると「いえ、そんなことはないんです。ただもしなんらかの保証があるのであればそちらで対応させていただければお客様にご請求差し上げなくてもよいものですから。販売店に延長保証の有無を確認することもできますし、もし延長保証の対象ということとなればメーカーに直接ではなく販売店さんのほうからご依頼いただくことになるものですから」と説明してくださる。領収証保証書類をどこにやったのかの記憶はない私ではあるが販売店の延長保証には加入していない記憶はたしかにあるのでその旨伝えて修理依頼する。オペレーターの方は「そうしますと、出張費用だけで四千円から五千円、あとは交換の部品によっていくらになるかは点検させていただいてからということになります」と言う。

「今回のケースの場合、部品があるものでその交換によって修理可能となりましたときにかかる金額の目安というのは現時点でわかりますでしょうか」
「ただいま確認してまいりますので、少々お待ちいだだけますでしょうか。いったんお電話保留にいたします」
「たいへんおまたせいたしました。内蓋まるごと交換になった場合で二万三千円となります」
「二万三千円ですか、それはまた高額ですね。でも一応いったん点検に来ていただいてそこまでの金額をかけて交換するかどうか修理担当の方に直接見ていただいた状態で相談させてもらってもよろしいでしょうか」
「はい、それは、もちろんでございます」
「ではまるごと交換だと二万三千円でまるごとでなく一部交換などであればそれよりも安い金額で済むこともあると思って算段しておいていいでしょうか」
「はい、そのように思っていただけましたら」

 昨夜夫に「明日洗濯機の修理に来てもらうことになった」と伝え上記の話をする。夫は「合計三万円弱もかかるのかー。なんだかなー」と言う。そして洗濯機の外蓋を開けてそのまま戻ってくる。

「どうやらくん、洗濯機の外蓋を開けたままにしてるけど、それはなにか意味があるの?」
「こうしてたらなんか洗濯機が元気になって内蓋直らんかなーと思って」
「いや、今になって直ったらだめなんだよ。明日修理屋さんが来てくれたときにちゃんといつもどおりに壊れた状態でぱったんぱったん勝手に閉じてくれないとそれを再現してもらわないといけないんだから下手に元気にしたらいかん」
「でもそんなに修理代かけるんならおれはやっぱりマジックテープかマグネットかなにかで固定して使うのがいいと思うなあ」
「そんなことは私が修理依頼の電話をする前にすかさずやっておかないと。それをしてないから私の手が何度も危険な目に遭ってこうして修理依頼したんだから」
「うちの洗濯機、延長保証に入ってないんだっけ」
「うん、入ってない。うちはまえにききそうできかない延長保証でがっかりすることがあって以来延長保証には入らないでやってきてるから。うちの家電製品いろいろあるけど、自分たちで買ったもので延長保証つけてないものは6個位はあると思うのよ。一個あたり延長保証料金が五千円として6個で三万円、今回三万円弱かかったとしても支払っていなかった延長保証料金貯蓄で払うと思えばまあいいかなと思う。それに自分たちで買った家電製品で修理屋さんに来てもらうのって結婚して初めてじゃないかな。二十数年暮らしてればそういうことは一回くらいはあってもよしとしようよ」

 そして今朝9時半に修理屋さんが来てくれた。「うちの製品がご迷惑をおかけしておりまして申し訳ないことです」と言いながら玄関に入ってこられる。洗面脱衣室の洗濯機を見てすぐに「ああ、これは内蓋を固定してある部分が擦れて弱くなったときにこうなるんです、よくあることなんです」との説明がある。

「ええっ、よくあることなんですか」
「はい、この内蓋はプラスチックの突起が本体にぎゅっと入れてあるだけの作りですので、何度も開閉していますとそこがだんだんと擦り切れてきて自立できなくなるんです」
「ええええ、洗濯機の内蓋なのにですか」
「そうなんです、昔のものであればそんなことはなかったんですが、最近の、そうですね、ここ10年以内くらいの製品はコスト削減が激しくなって、デザイン性は高くなっているんですが、こういう部分の作りが数年で劣化するようなものになっているんです」
「それは、なんというか、ものづくりとして、残念な気持ちになりますねえ」
「昔の洗濯機でしたら、こういう内蓋であってもプラスチックの突起ではなくちゃんとバネを中に入れてありましてそのバネがピシっとピタッと固定する構造になっていましたから、バネがダメになることは少なく、またもしダメになったとしてもバネだけ交換すれば元に戻せるようにしてあったんです」
「では、この蓋は、使用頻度にもよるのでしょうが、今回のように数年で自立しなくなるのが前提と考えるものなんですか」
「そうなんです、だいたい数年で自立しなくなります。長くもっても5年ですね、それ以上もつ場合もありますが」
「販売店の5年保証に入っていてちょうどよく5年以内でその不具合が起きてくれれば販売店の延長保証で対応していただけるんでしょうけど」
「ええ、だいたいみなさん、メーカー保証にしても販売店の延長保証にしてもそれぞれの保証期間が切れたころに不具合が起きることが多いですね。メーカー保証期間の一年以内はまだまだ新品ですからそんなに早く壊れたらいかんというのもありますが、延長保証の5年となると運良く4年7ヶ月の時点で不具合が生じたらちょうどいいタイミングでしたねえ、とお話しますがそういうことは稀です」
「内蓋が自立しなくなった場合皆さんどうしていらっしゃるんですか」
「これまでに別の修理で伺って内蓋もたたなくなっていますね、というところでああこれはよく工夫していらっしゃるなと思ったのは百円ショップやホームセンターなどで売っているS字フックっていうんですかね、それでひっかけて留めて、フタをするときにはフックを外して、ってしておられるところがありました」
「S字フックでしたら、うちにもちょうどここにありますが、これをこんなかんじでこうでしょうか」
「あら、S字じゃなかったですかね、長めのCの形のフックだったかもしれません」
「なるほど、しかし家電製品として数年経つとそういう本来の製品以外のものを持ってきて留めてやらないといけなくなるというのは製品として残念なかんじですねえ」
「そうなんですよ、ほんとうに。あとはお客様によっては、乾燥機能のついた洗濯機買ってみたけどやっぱり乾燥機能は全然使わないから乾燥のためだけに必要な内蓋ならこんなぱたんぱたん落ちてきて勝手に閉じる内蓋ならもう外して取っつんて(取ってしまってちょうだい)と言われることもあります。洗濯だけであれば多少飛沫が飛びますが内蓋なしで外蓋だけでも作動しますから」
「はー、なるほどー。うちは乾燥機能も使うときには使いますから内蓋はほしいですね」
「この内蓋自体は部品代が4200円ですので、なんでしたらなにかそういうフックで固定する方法でいかれることになさってもどちらでも」
「そのお値段なのですが、昨日お電話で部品交換した場合の金額の概算をお伺いしましたところ23000円程度と聞いていたのですが、4200円に何がどう加わると23000円になるんでしょうか」
「ええええっ、23000円って、内蓋だけでそんな高くはなりません」
「それでは23000円はなんのお値段なんでしょう」
「ああ、今部品代一覧見てみましたが、洗濯槽と一緒に一式まるごと交換した場合のお値段が23000円ですね、まちがってそちらをご案内したんですね、すみません」
「ああ、そうですか、でしたら、交換の方向でお願いしたいですが、お値段の合計を確認させてください」
「はい、出張費用が2400円、内蓋部品代が4200円、点検診断料金が1000円で」
「あと工賃はいかほど」
「工賃ですねえ、これが工賃をいただくほどの技術ではなくてですね、ほんとただたんに蓋を引っ張って外して新しいふたを押して入れるだけなんで、工賃をいただくのも申し訳ないくらいでして、うーん、どうしようかなあ、うーん、今回は点検診断工賃合わせて技術料という形にさせてもらいます、そうしますと合計で税込みで8200円ほどになるかと」
「わかりました、では交換してください」

 内蓋がパカっと取り外され「ここの部分が開閉が重なることで劣化してかちっととまらなくなるせいで自立できなくなるんです」と見せてくださる。取り外すときにドライバーのようなものをわずかに補助として使いはしたがほぼ素手のみで引っ張るだけの作業であった。そして段ボール箱から取り出した新しい蓋の蝶番部分を本体に噛みあわせて押し込めて完成。

「むかしの洗濯機であればご購入後20年くらいは使っていただけるのものだったんですが、今はもう長くもって10年と思っていただいたほうがいいと思います。それほど作りがなんというか昔に比べますと壊れやすくなっていますので」
「そうなんですか。うちはこの洗濯機の前はやはり日立さんの静御前を20年近くつかってまして本当によく働いてくれたいい洗濯機だったんです。あと冷蔵庫も電子レンジもうち日立さんのものなんですがこれももう20年以上経ちますがまだまだ現役でよく働いてくれて助かってるんです」
「ありがとうございます。あの頃の製品は本当にそうなんです」
「しかし、そんなに簡単に壊れるというのは、なんというか、やはり、ものづくりとして、特に家電製品では、残念なことですね」
「はい、まったく、おっしゃるとおりです」
「参考までに教えていただきたいのですが、内蓋は数年で自立しなくなるとして、他にはどんな不具合がこの洗濯機の場合には想定できるでしょうか」
「それはもうありとあらゆる不具合が起こりうるんです」
「そんなにですか」
「むかしの製品はそんなにそんなことはなかったんですが今のはそうなんです。まずそうですね、たとえばここの給水排水の蛇腹のパイプがありますよね、ここに亀裂が入って漏水するということもよくあります、その場合はこのパイプを交換します。あとは、ここに外蓋を閉じたときに脱水時や乾燥時などにロックがかかるカチッと留まる部品が入っているんですが」
「はいはい、ロックがかかるときにカチっていってます」
「その部品がですね、むかしはそう簡単には壊れないものでできていたんですが、今はわりと簡単に壊れる素材になっていまして、ロックしたままで壊れて蓋が開けられなくなるという不具合もあります」
「そ、それは、洗濯物が洗濯機の中に入ったまま取り出せないということでしょうか」
「そうなんです」
「すぐに干せないと修理に来ていただくまでの間に洗濯物がくさくなると思うんですが」
「はい、たいへんな不具合です。あとはそうですね、モーターはダメになることはないんですがベアリングが壊れて洗濯槽が回転しなくなることもあります」
「そうですか、そんなにいろんな可能性があるんですね、わかりました、よく覚悟しておきます。ところでうちの洗濯機の場合、この外蓋をもう少し向こう側に倒すことができたら内蓋も手前に落ちて来にくいのではないかと思うんですが」
「こちらの洗濯パンのサイズが洗濯機自体は入るサイズではあるんですがあと手前にもう5センチ本体をずらすことができるサイズでしたら外蓋が水道蛇口とぶつかることなくもう少し後ろ側に倒れることができるんですね、そうしますと内蓋もそのぶんぐっと向こう側に倒れた状態になりますので手前に倒れて来にくくなります。かんじとしては(洗濯機本体を手前にぐいと引き寄せて)こんなかんじでほら蓋がだいぶんうしろよりになりますよね」
「でしたら、たとえば洗濯機の足のところをぐりぐりと高さ調整して少し前傾気味にしてやってはだめなんでしょうか」
「それはだめですね。そうしますと水平ではなくなりますので洗濯槽の回転が不安定になります。今の水平状態がベストな状態なのでそこは保ったままでお願いします」
「あと水道の蛇口のこの接続の部品のこの角ばったところがあるのが洗濯機の外蓋をあけたときに微妙に手前に押し出すことになっている気がして。角ばったところを別の位置に移動させることってできるんでしょうか」
「それは簡単にこう回すだけで。念のためいったん水道蛇口閉めますね。これくらいの位置だとどうでしょう」
「ああ、そんなに動きますか。私の手では全然動かなくてあきらめてたんですけど。これなら突起部分が蓋に当たらなくてよくなりました」
「あ、水道の蛇口のところ、わずかに水漏れしてますね。これはうちの仕事ではなく水道屋さんの仕事になりますので、そのうちにパッキンの交換をしてもらってください」
「パッキンの交換でしたら、うちに予備のパッキンありますので自分でできると思います」
「いやご自分では難しいでしょう、元の水栓も止めないといけませんし」
「元の水栓止めて家中の蛇口のパッキンの交換はこのまえしたばかりですので、でもそういえばここはしていませんでした。また元水栓止めてここを道具で回して開けて中のゴムのパッキンを入替えて、ですよね」
「そうです、パッキン交換されたことあるなら大丈夫ですね、その手順でしてください。今はできるだけ水漏れしにくいように蛇口を最大まで開けておきますね」
「ありがとうございます」
「では、車に一度戻りまして、伝票を作成してまいりますので、お代金と印鑑のご用意をお願いいたします」
「はい、わかりました」

 ほどなく修理屋さんの携帯から電話がかかり「申し訳ないのですが、洗濯機の横に書いてある型番と製造番号を読んで教えていただけますか」と連絡が入る。「BWD85V」「4013574」と読み上げる。しばらくすると玄関に戻ってこられ「ではこちらの金額で端数は切り捨てまして8200円お願いいたします」と伝票を提示され10200円出し2000円のおつりをもらう。指定された場所にシャチハタ印を押して修理は完了。

 新しい内蓋は開けた時にカチッとしっかりと自立し落ちてこない。そのままずっとじっと開いたままでいてくれる。すごく快適。そして閉じるときにはこれまでよりもきゅうっとぴっちりと閉じてくれる。修理屋さんに「なんとなくカチッと押して閉じるのにこれまでよりも少し力が要る気がします」と言うと「新品のときはそうなんです。それがだんだんパッキンとこのカチッとなるところのプラスチックが劣化してきますとふやーんとしたかんじになってきます」と教えてもらいそういえば洗濯機が新品のころの内蓋はこんなかんじだったかもと思い出す。今の洗濯機のこともとても気に入っているからできることならまた二十年前後お付き合いできたらいいなあと思っていたのだけれども、今回いろいろ話しを聞いてそんなに長くはもたないのかもしれないと少しずつ思うようにしたほうがいいのだろうなと考えるようになった。家電製品の不具合相談と修理依頼と実際の修理の完了と支払いまでそれなりにじょうずにこなせてめでたしめでたし。     押し葉

赤イカに、さざえノドグロこだま貝

 先週の日曜日に魚を食べに出かけた。夫が「ボーナスが出たからご馳走するよ、なんでも好きなものを好きなだけ食べてくれ」と言ってくれるのでお言葉に甘えて。行き先はできれば春夏秋冬に訪れたいけど実際は年に2回くらいの頻度で出かける魚料理屋さん。一階の魚売り場で食材を選び二階の食堂でその食材を料理してもらう。

 今回は「夏だし、またおいしいアナゴがいたら天ぷらにして食べたいね」と話しながら出かけたのだけど魚売り場で「アナゴはありますか」と訊くと「今はアナゴの底びきはやってないから入らないねえ」と言われる。「以前夏にここにきていただいたアナゴの天ぷらがおいしかったからまたいただけたらと思ったんですけど残念」と言うとお店のひとも「アナゴの天ぷらおいしかったでしょう、何かアナゴに似たものを見繕ってあげられるといいんだけど、今うちにあるものはどれもアナゴとは全然ちがうものばかりだわぁ」と残念がる。

「では、赤イカをお刺身と天ぷらでいただきます、大きめの一杯を半分ずつで」と言うと「それなら小さいの二杯で一杯ずつ刺し身と天ぷらにしたほうがおいしいよ」と教えてくださり「じゃあ、そうします」と赤イカを二杯。
「それとコダマ貝を大きめのを4個ください、これは焼きで」
「それからサザエをつぼ焼きにしたいので2個」と言うと「大きさいろいろあるから好きなの選んで」と言われ水槽にサイズごとに分別されているサザエの中くらいのもの(お値段も中くらい)を2個選ぶ。
「あとは、ノドグロを一匹。頭は汁で、半身は焼きで、もう半身は煮で」
 ここで夫が「それと岩牡蠣を一個ください」と言う。夏の北陸は岩牡蠣の旬。冬が旬の広島の牡蠣とは異なるゴツゴツとした外観の貝の塊をお店のひとにひとつ選んでもらう。

 二階にあがり席に着く。それぞれの料理法を確認して注文する。単品でご飯を注文、夫は普通盛りで私は少なめで。おしぼりとお茶と箸と小鉢が三品供される。小鉢はバイ貝の煮付けとイカの塩辛とカニのほぐし身の酢和え。私はイカの塩辛が苦手なのだけど夫はふつうに好きなのですかさず私の小鉢の中身を自分の小鉢に入れて全部ひとりで食べてくれる。

 夫と「アナゴがなくて残念だったね」と話す。「こっちのアナゴは底びきなんじゃね」とも。瀬戸内海のアナゴは手に持った糸を垂らして釣る海釣り方式で夫は中くらいの子どもの頃夏になると海に出掛けてアナゴの海釣りしたなあ、と言う。私の父はむかし一時期船での海釣りに凝っていたことがあり夏の夜中に船(当時父は海遊びのために小舟を所有しており当時実家に住んでいた母と弟は父の趣味に付き合って小型船舶の免許を取得したので彼らは小さな船の操縦ができる、当時祖母も同居はしていたが祖母は小型船舶免許は取得していない)を出して海に出かけて行きアナゴを釣って持ち帰る。父は早朝それを台所でさばき、屋外で七輪に火をおこし、さばいたアナゴを焼き、タレを張った長方形の容器に焼き上がったアナゴを漬ける。私達家族が朝起きると食卓に父が焼いたアナゴがあり炊きたてのご飯と一緒に朝ごはんにアナゴをいただくのはことのほかおいしくて、大学の夏休みに帰省していた私は喜んで食べていた。高校の寮で暮らしていた妹も夏休みで帰省していると喜んでそのアナゴを食べる。だから瀬戸内海のアナゴといえば海釣り(あの漁法の正式な名前はなんというのだろう)だと思い込んでいたけれどそれは個人が趣味で釣るからであって商業的な漁として大量に捕獲するとなると瀬戸内海でも底曳き網や延縄漁で行われているのだろうか。

 今回赤イカをお刺身と天ぷらで注文したのはお刺身のほうが早く出てくるだろうからそれを食べている間に他の料理を待つとちょうどいいよねという思いでだったのだけど、実際には天ぷらのほうが先に出てきた。いつもなら天ぷらは天つゆがあってもひたすら塩で食べることが多いのになんとなく天つゆにくぐらせてご飯と一緒に食べたら天丼のおいしさがそこにはあり(あたりまえなのだが)、塩天丼とつゆ天丼を愉しむ形となった。

 夫の岩牡蠣は酢牡蠣で。他にもバター焼きやカキフライなどの調理法が用意されてはいるが夫は「せっかくの岩牡蠣をフライにするなんて」と拒む。

 サザエのつぼ焼きはとぐろの先っちょまでツルリンときれいに取り出せた。夏の海草をたくさん食べて鮮やかな緑色になったサザエは他の季節のサザエよりも一層おいしいような気がする。

 ノドグロは冬に食べた時にはその脂ノリノリの旨味が脳内麻薬を分泌促進しまくりだったが、今回夏に食べてみるとノドグロの身はどちらかというとスリムで脂はややさっぱりとしており冬に食べた時よりもずっと爽やかで清涼でこれはこれでまた冬とはまた異なる種類の脳内麻薬が分泌され食の快楽でラリり気味になる。夏のノドグロだからそうなのか、私達が今回食べたノドグロの個体がたまたまそういうタイプだったのか、どちらなんだろう、と思うけれど、どちらでもおいしいから詳細は求めない。

 すべてをおいしくいただいて、小雨の降る日本海を眺め、満足して店を出る。一階の魚売り場で「前回と今回はコダマ貝を焼いてもらっておいしかったんですが、もしかしてコダマ貝はお吸い物でいただいてもおいしいんでしょうか」と訊くと「汁もおいしいねぇ」と言われる。焼いたコダマ貝の殻の内側にたまった汁のじくっとしたおいしさがあれだけ口に広がるということはこれはハマグリともアサリともまた少しちがう貝のお吸い物になるのではないかと思いながらいただいたけど、そうか、やっぱりそうなのか、よし、次回は小さめのコダマ貝を複数個買ってお吸い物でいただこう。

 休日のレジャーお出かけの気持ちとしては帰りの高速道路でどこかサービスエリアに立ち寄りソフトクリームを食べたら完成度が高くなるよねと話はしたものの私達のお腹は魚で十分にくちくなっておりソフトクリームの入る余地はなかった。     押し葉

あじさいと結束

 日曜日のお昼にあじさいを見に行った。市内を一望できる小高い山の上にある茶屋までの坂道に連なるあじさいの群れと茶屋の周りに咲き乱れるあじさい。あじさいは花も立派だけれども葉っぱもいいと思う。その葉脈のぶりぶりとしたその様が。

 山頂の茶屋でお昼ごはんにおろしそばとカツ丼のミニセットを食べる。夫はソースカツ丼で私はおろしカツ丼。おろしカツ丼には大根おろしと水菜をのせてそこに醤油がかけてある。夫はソースカツ丼を食べながら「なんかそっちのカツ丼のほうがよかったな。水菜ものってるし」と言う。食後には黒糖わらび餅。

 食事を終えてお店を出て車に乗る。私達よりも先に会計を済ませ茶屋の周りのあじさいを見ていた女性三人が車の前を横切る。三人とも上半身の衣類の柄が横向きの縞模様なのを見て夫に「あのひとたち、三人ともしましま」と言う。夫は三人を見ると「しましまきょうだい」と言う。

「きょうだいではなくてたぶんあのひとたちは他人だと思うんだけど。たまたま今日当日会ってみたら三人ともボーダー柄だったんかな。それとも今日はボーダー柄を目印に集合しようという計画で各自衣類か持ち物のどこかにボーダー柄を持ってくることという掟のもと目印にしましまを着てきたんかな。それか今はボーダーが流行中なんだろうか」
「ああ、『しましまきょうだーい』って声をかけたいけど、そんなことしたら『あんたらだってチェック野郎やん』って言われるけんやめとく」
「チェック? 誰が?」
「おれら」

 そう言われて夫を見ると夫のシャツは細かいチェック柄で、そういえば私のスカートは夫のシャツよりは大きめのチェック模様。そんな話でもしなければその日に夫が着ているシャツがチェック柄だということを認識することなく一日を終えたかもしれない。私達がふたりともチェック柄の衣類だったのは別段今年の流行とはなんの関係もなく集合の目印にしたわけでもない、集合そのものもしていない、ふたりとも同じ家から出かけてきた。

 集合、といえば、半年か一年くらい前に永平寺より少し手前にあるお蕎麦屋さん風食堂に行った。本当は別のお蕎麦屋さんに行くつもりで出かけたのだけど目的のお蕎麦屋さんにはたくさんのひとが行列していて、行列に並んでまでそのお店のお蕎麦を食べたいこだわりを抱いていたわけではなかったからあっさりと別のところにした。どこにしようかと車を走らせながらお店をさがしているときに夫が「じゃあ、あそこ」と言ったところ(これまで見たことはあっても入ったことはなかったお店)に入ったのだが、そのお店はどちらかというと観光客向けのお店で、地元の人が好んで何度も通うようなお店に比べると一見(いちげん)の通りすがりのお客さんたちに地元の代表的なメニューを紹介するような内容と味。地元に暮らし同じメニューをいろんなお店で食べ比べてきた私達には味の満足度が低く、今度こういう展開になったときにはもう少しそのへんの勘を働かせて別のタイプのお店にしようね、ということになった。

 そのお店の味とは関係のない話なのだけど、そのお店の店員さんたちが制服として着ているTシャツが黒地に白の文字が書いてあるデザインで文字の内容は地元観光に関係のある語彙だったような気がする。店内で座っているときにそのTシャツのデザインを見て夫に「どうやらくんがときどき着ているTシャツとデザインが似てるね。どうやらくんのTシャツに書いてある文字は、なんだっけ、何かがぎゅっと集まって集合して固まるような、そんな意味合いの言葉で、集合? 凝集? 固着? なんかそんなやつ」と問うと夫が「もしかして、それは、それをいうなら、結束。だけど黒地に白文字という以外は似てない」と言う。「ああ、そうだ、うん、結束」と夫のその日は着ていないTシャツのデザインを思い出す。

 夫のそのTシャツは夫が卒業した大学のアメリカンフットボールチームのチームデザインTシャツ。夫は年に一度か二度OBとして試合の観戦に赴きそのときにチームへの寄付も兼ねてチームデザインのグッズを何か買ってくる。スポーツチームの団結と好成績を願うデザインの語彙としては、『集合』よりも『凝集』よりも『固着』よりも、『結束』のほうが適切だな。     押し葉

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プロフィール

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

ときどき、思い出したように、いただいたメッセージへのお礼やお返事をリンク先の「みそ語り」に書いています。よろしければ、いつでも、どうぞ、どなたでも、ご覧ください。「みそ語り」では、メッセージをくださった方のお名前は書いておりませんので、内容から、これは自分宛かしら、と推理推察しながら読んでいただければうれしいです。手の形の拍手ボタンからメッセージをくださる場合は五百文字以内、文字の方の押し葉ボタンからメッセージをくださる場合は千文字以内となっております。文字数制限なくお便りくださる場合には、下のメールフォームをご利用ください。

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